第250話 穴山小介との邂逅―1

 幸村が火草に合図を送った直後――。

 望月六郎が男どもに黄金色に輝くものを見せた。

「ほれ。これを知っておるか。甲州一分金よ。これを進ぜるので、火付けだけは勘弁してもらいたい」


 そう言いながら、六郎は男どもの目の前に、甲州一分金の輝きをばらまいた。黄金の粒が、松明の火に光り輝きながら石畳の上にはじけ散らばる。

「むっ」

 浪人どもの目が、そのきらめきに注がれた。

 次の瞬間。

 すっと闇の中から、浪人どもの首領の背後に忍び寄った者がいる。

 火草であった。


 火草が首領の首根に鎧通しを押し当てて言った。

「おのおのがた、なまくら刀をお引きなされ。さもなくば!」

 鎧通しの切っ先が首領の喉仏をチクリと刺した。

 その瞬間、手下の巨漢が悲痛な叫び声を上げた。

「岩千代さま!」

 

 ――むっ?

 幸村は小首をかしげた。

 岩千代という名には聞き覚えがある。

 そのとき、火草がさらに凄みをきかせた。

「この宿のすぐ裏手は墓地じゃ。とっとと刃をおさめねば、お主らのあるじ殿に引導を渡すことにいたす。念仏でも唱えるがよいわ」

 男どもの持つ松明の火が揺れた。激しく狼狽しているのだ。


 幸村が思い出したように声を発した。

「もしや岩千代殿と申されるは、穴山小介こすけ。小介殿ではござらぬか」

 闇の向こうから驚きの声が上がった。

「おおっ、そのお声は真田の……源次郎さま!」

 小介がさらに声を張り上げる。

「お懐かしや、源次郎さま。かようなところで不様ぶざまな姿をさらし……お恥ずかしゅうございます。面目次第もござりませぬっ!」


 すると宿の二階から笑い声が上がった。

「小介殿、懐かしいのう。それがしの顔、お見忘れか」

 破顔する三十郎の姿を、松明の火が照らし出した。

「な、なな、なんと。矢沢の兄さまもご一緒であられたか。も、者ども、何をしておる。さっさと刀を引くのじゃ!」

 小介のあわてふためいた声が響いた。

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