第247話 火草と佐江姫との約束―4
火草は夢の中で飛雪丸に襲われた。
その鋭い爪が眼前に迫ったとき、はっと目覚めた。
「何故、飛雪丸は襲ってきたのか。もしかして、思し召しにそわぬ私に、佐江姫さまがお怒りであるのか」
そして、火草は意を決して幸村の大坂行きに随行し、いま中山道を西に進む。
栗毛の馬に跨る火草には、凛々しい若侍姿がよく似合った。
中山道は古くは東山道と称され、木曾街道、木曾路とも呼ばれた。
のちの江戸時代に整備されるまで悪路の連続で、貝原益軒の『木曾路之記』によれば、「おおよそ信濃路は皆山中なり。なかんづく木曾の山中は深山幽谷にて、山のそば伝いに行しが、崖路多し」とある。
その中山道の三大難所のひとつに「木曾のかけはし」がある。
これは木曾川の切り立った崖に丸太を差し込み、その上に板を敷いただけの桟道である。
こうした断崖沿いの粗末な桟道は、一つや二つではなく、その数たるや十数か所。旅人は目の前にこの桟道が現れ、通行するたびに、命の縮む思いがしたいという。
さて、幸村ら四人は、
ここは今でこそ岐阜県中津川市に編入されているが、当時は信濃のはずれに当たる宿場であった。
「もはや陽が沈みかけておる。山中の夜は早い。今宵はこの馬籠宿で休もうぞ」
翳りはじめた空を見上げ、有無を言わさぬ口調で三十郎が言う。
早く宿を取って、酒を煽りたいのだ。
馬上、せっかちそうに塗笠の紐を解いている。
望月六郎に宿の手配を任された火草が、厩のある一軒の
「一階は先客にてすべての部屋がふさがっているので、二階の座敷なら、ということでございます」
一行は旅籠の土間にに入り、上がり框で草鞋を脱ぎ、箱階段をきしませながら二階へと上がった。
その幸村らの様子を、一階の障子の隙間から、じっと窺う者がいた。
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