第243話 上田城改修

 碁を打ちながら、昌幸が恐るべきことを言う。

「実は、いま上杉と交渉しておる。この城の改修費を融通してほしい、とな」

「えっ、左様でございましたか」

「うむ。家康めに再び攻められても、落城せぬ城をつくりたいと言うて、二千貫ほど出してほしいと申し込んでおる」

「出しましょうか」

「出す。必ず出す」


 上田城はもともと徳川家の金で「対上杉の城」として普請したという経緯がある。

 昌幸はそれを承知で、今度は「対徳川の城」として改修したいので、上杉景勝に資金融通を申し込んだのだ。

 表裏比興の者と称された昌幸の面目躍如といえよう。


「で、どこを改修なされますか。やはり大手口?」

「うむ。東の大手は、さらに防備を固めねばならぬ。あそこが、この城の最大の弱点であるからのう」

「それ以外には?」

「まあ、いろいろあるが、任せておけ。この城をさらなる堅城に仕上げれば、家康ごとき何するものぞ。天下の大軍とて怖るるに足りず。ふっふふ」


 中山道を大坂へと進む幸村の脳裏に、その折の昌幸の楽しげな表情がよみがえる――。

「父上は、鬼謀の人よ。戦うために生まれたお人であることよ……もしや、真田の小さな身代しんだいで天下を目指されておるのか……まさか……」

 幸村は馬上、つい思い出し笑いを浮かべた。


 直後、幸村が騎乗する白葦毛のうしろから、大柄な青鹿毛が寄せてきて、馬首を並べた。

「若。何やら楽しげでござるな」

 青鹿毛の上から声をかけてきたのは、矢沢三十郎であった。

 三十郎頼康は、今回の大坂入城にも自ら介添え役を昌幸に願い出て、許されていた。

「前回の越後春日山城詣でとは異なり、此度のお供は、気楽でござる。しかも、初めての上方。さて、京・大坂の酒は、さぞや旨いことでござろうな。いやはや、楽しみ、楽しみ。ワッハッハ」

 その三十郎の背後に、二人の若武者がつづく。

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