第239話 佐助不覚―1

 伊賀者から繰り出された必殺の刃を、佐助は宙に舞い、紙一重の差でかわした。と同時に、もう一人の男が忍び刀を振りかざし、佐助を襲った。

 佐助は再度、宙に舞い、空中でトンボを切りつつ、右足をのばし、そやつの顔面をしたたかに蹴った。

 

 顔面を蹴られた男は、その躰がまりのように転げ、土塀にぶつかったまま動かなくなった。どうやら失神したらしい。

 ――あと一人だ。

 と、思った瞬間、背後から声がした。

「さっきの薬売りだな。いずこの忍びだ」

 残り一人の男の声であった。


 佐助がその男に向き直った瞬間であった。

 シュシュッと音を立て、男の口から幾筋もの光るものが佐助の顔に飛んできた。

 含み針である。

 咄嗟に、佐助は蓑笠で顔を隠した。刹那、笠に突き刺さる数多あまたの針。


「やるな、薬売り」

 男は唇を歪めて、忍び刀を下段に構えた。

 佐助が低い声音を出した。

「刀をひけ。無益な殺生はしとうない」

「ふんっ。ならば、何故、われらをけた」


 じりじりと間合いを詰めてくる男に佐助が言う。

「半蔵どのにお会いしたい」

「ほう。おかしらに会っていかがする」

「さるお方の仇として、お命を貰い受ける」

「痴れ者めっ!」

 相手の白刃が一閃した。


 それを軽々とかわした佐助であったが、背後からも鋭い殺気。

 ――しまった。新手あらてがやってきたか。

 そう思うや否や、背後から一刀を浴びせられた。

 佐助は躰を地に一転させて、それを避けた。が、避けつつ、悟った。

 二人の新手が加わり、すでに三人の男に取り囲まれていたのだ。


 ――いかに切り抜けるべきか。

 この辺り一帯は、おそらく伊賀者の巣窟なのだ。となれば、時間が経つほど面倒なことになりかねない。

 左右から忍び刀が同時に襲ってきた。

 それは、手練れの敵に対する相討ち覚悟の必殺剣であった。

 佐助は土壇場に立たされた。

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