第238話 佐助の探し物―3

 薬売りに扮した佐助がを装い、

「へえ。なんでござりましょうか」

 と、いかにも鈍重そうに聞き返した。

 男が舌打ちしながら再度、居丈高な口調で言う。

「刀傷に効く膏薬こうやくを持っているであろう。出せ」

 佐助はのろのろと千駄櫃を開けて、中の金創薬を取り出しながら、男の履き物を見た。やはり棕櫚しゅろで編んだ強靭な草鞋であった。


 その男の連れも、棕櫚の草鞋。しかも、双方いずれの鼻緒も獣皮と木綿を併せ編みし、強度を高めている。それは、忍びの履く草鞋であった。

 ――間違いない。こやつら伊賀者だ。

 佐助は膏薬を手渡しながら、伊賀袴をはいた二人の腰の物に目を遣った。

 ――忍び刀だ。

 二尺に満たぬ刀身、いずれも反りがない。


 金創薬を懐中におさめた男は、佐助に鳥目ちょうもくを与え、連れの男とともに踵を返した。

 ふたつの影が宝泰寺の土塀の角を曲がるや、すかさず佐助はあとを追った。二人のあとを追えば、おのずと半蔵の居所がわかろう。

 

 町中は駿府城普請の大工、人足、車力、そして商人などでごった返していた。さらに積荷をひく牛馬がひっきりなしに行き交う。その喧噪と雑踏にまぎれて、佐助は油断なく尾行した。

 二人の男は鷹匠町の辻を曲がり、水落町へと差しかかった。行く手には、駿府城の草深門が見える、


 ――やはり、伊賀者がこの裏門の警護に当たっておるのか。となると、半蔵の屋敷も、この搦手からめて辺りにあるに相違ない。

 佐助の足は武家屋敷が並ぶ一帯へと差しかかった。この辺りは人通りが少ないだけに、尾行するには条件がよくない。


 突如、ふたつの影が佐助の視界から消えた。

「むむっ!」

 不審の声をあげた佐助に、土塀のそばの樹上から、黒い影が舞い降り、鋭い太刀風が佐助の耳元で起こった。

 刹那、佐助の躰は宙に舞った。

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