第201話 幸村参陣―2
直江兼続は言葉をつづけた。
「徳川との合戦をひかえ、信繁どのはここ越後におられる。ご心中お察し申す。わが殿は、先般、真田どのへのご助力として、海津城の須田満親に援兵を命じられた。よって、お手前も越後からのわが援兵とともに、上田へ向かわれよ、との仰せでござる。ご武運、お祈り申す」
ひれ伏したまま、兼続の言葉を聞く幸村の胸に、熱いものがこみ上げてきた。
佐助ら草の者からの急報を受けるたび、幸村は座して傍観せざるを得ないわが身の境遇を嘆くとともに、おのが血の騒ぎを抑えきれずにいたのだ。
「此度の身に余るご厚情、誠にかたじけなく……」
幸村は言葉を詰まらせ、肩をふるわせつつ、さらに身を低くした。不覚にも、瞼からしたたり落ちるものがある。
その様子を見て、景勝が再び、上段の間から声を張り上げた。
「行け、源次郎。必ずや毘沙門天のご加護があろう」
次に、直江兼続に向き直り、短く言った。
「正宗を与えよ」
兼続が「えっ!」という顔をしつつも、すかさず、
「はっ。畏まって候」
と、応えた。
幸村に与えられた五郎入道正宗は、上杉家秘蔵の名刀なのである。兼続が驚くのも無理ならざることであった。
景勝の下知により、海津城の須田満親は、昌幸の後方支援として、北信濃の将士六千人を糾合し、ひとまず
そして今――。
幸村は、昌幸の命に従い、神川の岸に兵を埋伏し、徳川の先陣を迎え撃つべく満を持していた。
早暁の川風が、丈の高い葦の葉をなびかせて通り過ぎる。河岸の葦の茂みに埋伏した兵二百余は、私語はおろか、咳払いひとつとしてする者なく、幸村の下知を粛として待つ。
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