第157話 猿飛ノ佐助―3
―わが凶夢は、何故か常に正夢となる……。
佐江は少女の頃から、おのれの不可思議な霊力に、自身おののきを覚えることがあった。
前年の秋、父矢沢頼綱が城代として守る沼田城の危機を救ったのも、夢の力によるものであった。敵対する北条軍の奇襲が、佐江の夢の中にまざまざと現れたのだ。
「大殿、ご無事であられませ」
残月は佐江のただならぬ気配を敏感に感じ取り、白い矢のごとく疾駆した。
その後ろから、
佐助であった。
佐江が上田城に残月を乗り入れるや、城内は尋常ならざる騒ぎの渦中にあった。
当主の昌幸が城内に忍び入った曲者に襲われ、凶刃を浴びたという。
「や、遅かったか!」
佐江は形の整った唇を噛み、無念の思いに耐えた。
すでに手当が施された昌幸は、本丸南櫓にしつらえられた
「大殿、お気を強くもたれませ」
佐江の呼びかけに、昌幸は双眼を大きく見ひらいた。防寒着として熊皮の
佐助の影が佐江に近寄り、耳打ちする。
「姫さま。賊のものとも思われる足跡が、雪の上に」
「追えるか」
佐江は声をひそめて佐助に問うた。
「ハッ!」
「なれど、
その指図に、佐助は
手を焼きそうな難事を前にしたとき、われ知らずつい出る佐助の癖であった。
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