第136話 天下への野心―2
黄金にまつわる余談はさておき、話は本筋に戻る。
幸村の話に耳を傾けていた筧十蔵は、隻眼を見ひらき、橋の欄干に手をかけて沈思した。
しばしの間があり、十蔵は越し方を振り返るようにしみじみと述懐した。
「若と根津家でお会いし、真田家ご帰還のお供をしてから、すでに4年が経ち申した」
「あれから4年でござるか……」
「左様。この4年の歳月で、若と大殿は、長い空白の時間を乗り越えられ、とりわけ城普請がはじまってからは、お二人の間で親子としての情愛が深まったようにお見受けいたす。何よりでござった」
幸村が十蔵に頬笑みかけた。
「佐江どのも昨日、まったく同じようなことを……」
「ややっ。これはわれながら言わずもがなのことを言うてしもうたようじゃ。不躾の段、お許しあれ」
「なんの、なんの。十蔵どのは、わが砲術の師。遠慮は無用でござる」
十蔵は天を仰いだ。
その一つしかない
「若よ。手前の見てくれは、このとおりじゃ。主家滅亡により、仕官先を求めて廻国修行に出たはよいが、長き浪々の末、痩せさらばえ、あげくに陣借りの戦さ働きで不覚にも片目をつぶしてしもうた」
「……」
「それでも、なんとか糊口をしのぐべく、諸国をまわり、鉄砲の腕を売り込んだが、このようなみすぼらしい
黙って耳を傾ける幸村に、十蔵が語る。
「久しく
「……」
「若よ。身共はこれでも武士の端くれ。おのれの技量を認めてくれる者のために死にたい。おのれを受け入れてくれた真田家のために死にたい。いつか見事、死に花を咲かせる場所を与えてくだされ」
「果たして、そのような時節が訪れましょうや」
「おおっ、必ずや到来しますぞ。若は不世出の名将たる一徳斎幸隆公の血筋を受け継がれており申す。まさしく龍の血韻。その天翔ける昇龍の血が、おのずと風雲を招くことは必定。この乱世にあって、それはもはや逃れる術のない天命であり、わかご自身が負われた
「……」
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