第131話 上田城築城―5
かくして真田石が本丸東虎口に運ばれた日は、終日お祭り騒ぎとなった。
昨春、主家の武田家があえなく滅亡し、幸村らは「信じられぬ」と言葉を失った。そして、事の仔細を知るにつれて、武田一門衆や譜代家臣らの浅ましい裏切りに憤りを感じるとともに、気持ちが暗く塞いでいたのである。
こうした若者らの純で生一本な言動に対して、昌幸は苦笑した。
「皆、尻がまだ青い、青い。先が思いやられることよ」
しかし、その大きな双眸には慈眼の光を宿していた。
後年、徳川家康に悔しまぎれに「稀代の横着者」といわれ、『三河後風土記』には上田合戦に負けた腹いせに「生まれつき危険な姦人」と酷評された。
昌幸は単に真田家を守りたかっただけの話ではあるが、胸のうちには力で人をおさえつけようとする人間や権力への反骨精神があったものと思われる。負けん気と言ってもよい。
それは、おそらく幸村ら若者と近しい一本気な反権力への熱情である。自分の武将としての才覚、力量を世に問い、末代まで名を残したいという熱情であるかもしれない。そうした昌幸の熱情の炎は、配流先の九度山で死ぬまで燃えつづけたのではないか。
さもなくば、この当代一の謀将といわれた頭脳明晰な男が、落ち目の武田勝頼を岩櫃城に奉じて、天下の大軍を向こうに回そうとするはずがない、ではないか。さらに言えば、大大名の徳川を相手に、二度も乾坤一擲の大勝負をするであろうか。
否である。
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