第130話 上田城築城―4

 昌幸が銭を投げ終わった後、何やらうたいはじめた。今でいう甚句のような節回しである。唄に合わせて三味と太鼓が鳴る。


 しわがれた渋い声で、昌幸が謡う。

「イヤよ、イヤよと、徳川さまは」

 すかさず頼綱が囃子詞はやしことばを入れる。

「アッ、エッサー」

 引き手の人夫らが一斉に唱和する。

「アッ、エッサッサー」


 昌幸の謡いに、頼綱の囃子詞と人夫らの唱和がつづく。

「袖を振りつつ、金を出す」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」

「どうせ出すなら、もっと出せ」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」


 佐江の白い陣羽織が風に舞う。 

 飛雪丸が蒼天にくるっと旋回する。

「どなたも落とせぬ城づくり」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」


 佐江の背の六文銭が陽にきらめく。

 飛雪丸の白い羽が蒼い空にかがやく。

「どうせ住むなら上田の里よ」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」

「花咲く城下に恋の道」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」


 佐江が扇で足下の巨石を指し示した。

「石は石でもこの石よかろ」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」

「かわいい主さんのあばた顔」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」


 背中で束ねた佐江の黒髪がゆらめく。

「さあさ、皆さま、お謡いなされ」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」

 昌幸と頼綱が満足気に互いの顔を見合わす。

「唄でご器量、下がりゃせぬ」

「アッ、エッサー」

「アッ、エッサッサー」


 この巨石は、こののち本丸虎口の石垣に組み込まれ、真田石と称せられた。上田城の要石かなめいしとして、今も訪れた人々の目を楽しませつづけている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る