第124話 狐狸の腹中―2
昌幸は、上田城の縄張りに頭をめぐらせている。
当然ながら、肝心の本丸は尼ヶ淵の断崖上に置く。北と西の二の丸には、広大な水堀をうがつ。すると、寄せ手は東方面からしか攻撃できない。
罠を仕掛けるなら、この東方面だ。ここに大手口を置き、敵を一手におびき寄せ、誘い込む。敵は徳川か、上杉か、それとも北条か。いずれにせよ、大軍で攻め寄せてくることに変わりはない。ならば、わざと大手口の通路を狭くし、大軍が一気に取り抜けられないようにし、敵をじわじわと落とし穴に追い込む。もがけばもがくほど、深みにはまってゆく蟻地獄に追い落とす。
その後は、恐怖にかられ、完全に逃げ腰になった敵に対して、精鋭の騎馬武者を繰り出し、同時に城外の伏兵が敵に襲いかかる挟み撃ちで、一気に粉砕するのみ。初戦で圧倒的な勝ちをおさめ、相手の戦意を完膚なきまでにくじく。昌幸は短期決戦に的を絞った縄張りの工夫を凝らしつづけた。
縄張りの細部にまであれこれ腐心する昌幸の脳裏に、
「まだか。まだ返事は来ぬか」
という思いがよぎる 。
すでに築城の準備も整っているのに、秋が過ぎ、冬が来ても、家康からの色よい返事がないのである。
「あのドケチの家康め。何を愚図っておる。そんなに銭が惜しいか」
しびれをきらした昌幸は、策を講じた。
草の者を遠江に放ち、
「来春、上杉景勝が大軍をおこし、信濃へ本格的に進攻する」
「上杉が羽柴秀吉と盟約を結び、徳川を挟撃する準備を進めている」
などといった、まことしやかな噂を浜松城下に流した。
それでも家康からはなんの反応もない。
昌幸は「ふむ。偽報と疑っておるのか。ならば……」と、次の一手を繰り出した。
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