第120話 昌幸の策略―2
昌幸から遠江での首尾は?と訊かれて、矢沢頼綱は、
「おおっ、そのことよ」
と思い出したように手を
以下は上田城築城についての家康側とのやりとりである。
「なるほど。上杉の南進を阻むために、要衝の地の上田に城を築くとは名案にござる。あそこに城を置けば、小田原の北条にも睨みがきくものと存ずる。なれど、城をつくるには莫大な銭が必要。ここは、
家康の隣で腹心の本多正信が、「然り」とうなずき、頼綱に向き直った。
「薩摩守どの。築城の費用として五千貫出せと言われるが、この浜松城ですら当初は小城程度のもの。今でこそ年々、曲輪を拡充し、堀や塀、土塁を堅固にはしておるが、そもそもは今川家の曳馬城という小城を改修したものに過ぎませぬ。上田の城も最初から立派なものにせず、年を追うごとにぼちぼち拡張の手を入れれば、五千貫はかからぬものと存ずるが、いかが」
ここで、家康、正信二人の煮え切らぬ態度に、頼綱が吼えた。
「本多どの、何をいわっしゃるか!そもそも本多どのが、甲斐・信濃の旧武田領の草刈り奉行として成果をあげ、今日あるは、われら真田家の働きがあってのものではござらぬか。われらが武田遺臣に徳川家に臣従するよう働きかけた結果ゆえではござらぬか。それとも、これまでの真田家の功を軽んじられるおつもりか。ご返答いかんによっては、われらにも考えがござる。はきとしたことを申されよ」
これに、本多正信が困ったように頭を掻いた。
頼綱の隣で、真田源三郎信幸が大叔父の行き過ぎた言動をたしなめるように、「ウッオッホン」と咳払いした。
しかし、そんな小才が剛腹な頼綱に通じるはずもない。
頼綱の矛先は家康へと向かった。
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