第97話 風雲急なり―4
一方、勝頼から新府城の普請奉行を命じられた真田昌幸は、せわしなく働いていた。その顔には疲労の色が濃い。
韮崎の断崖絶壁の地に、
そのとき、一人の人足が音もなく近づき、背後からささやいた。
「もうし」
女の声である。
昌幸は驚いて後ろを振り返り、頬かむりをした人足の顔をまじまじと見つめた。
埃だらけの汚い人足姿ではあったが、顔は女。しかも、男なら誰でもむしゃぶりつたくなりそうな妖艶な美女である。
歩き巫女の十人頭、お六であった。
「おおっ、お六どの」
思わず驚きの声をあげた昌幸に、お六が「しっ」と指を唇に当て、周りに目を走らせた。敵の間者が潜入し、どこで聞き耳を立てているかもしれないのだ。
昌幸はお六の意を察し、人気のない暗がりへと足を運んだ。何か重大なことが起きたのか、それともこれから起きようとしているのか。
「で、いかがした。何かあったか」
昌幸の問いかけに、お六が声をひそめる。
「木曾義昌公、ご謀叛の兆しあり」
「なんと!」
まさか、の事態であった。
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