第81話 不吉な予感―1
さて、話は本筋に戻る。
海野六郎の余計な邪魔立てはあったが――幸村の真田郷における日々がはじまった。
当時の真田屋敷には、昌幸の老母
この於国は幸村が真田郷に帰還した3年後、武田家の家臣
武田家滅亡後、小山田茂誠は昌幸の家臣となり、小県郡村松郷(現青木村)に領地を与えられたことから、於国は村松殿と呼ばれることになる。
於国は誰にも敬愛される心配りの濃やかな女性であったらしく、幸村も生涯、この姉を慕ったという。
真田屋敷において、次男であり、山之手殿から厄介者扱いされた幸村が住んだのは、嫡子の源三郎信幸(のち信之)とは異なる搦手門近くの離れであろう。というのは、この搦手口には、真田家の草の者らが暮らす「草屋敷」が集まっていたからである。
一方、嫡男の信幸をはじめとして主だった家臣らの屋敷は大手口にあった。その周りには、塩、味噌、干魚や、燈油、小間物、古着などをひさぐ店、さらに染物屋、鍛冶屋、桶屋などがたたずむ。
大手口前には、ごく小規模ながらも、いわば城下町のようなものが形づくられ、六斎市(月6回開催の定期市)も開かれていたという。
鉄砲浪人の筧十蔵は真田郷の南にある矢沢城にいた。
三十郎の引き回しにより、ひとまず砲術指南役としての役儀をつとめていたのである。
その矢沢城内で、佐江の乳母であり、
「ひっ、ひえーっ、おやめくだされ。ひっ、姫さま、なりませぬっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます