第79話 余談少々―1

 ところで話は変わるが、巷間言われる真田三代とは、初代の弾正幸隆を筆頭に、昌幸、幸村・信幸(のち信之)の累代をさす。


 始祖真田幸隆は、攻め弾正、鬼弾正の異名を持つに至った戦国三弾正の一人である。出自は信濃小県郡の名族たる海野氏といわれているが、実のところ定かではない。幸隆の前半生は不詳であり、家系を海野氏にこじつけただけという説もある。


 天文11年(1541)、武田氏と戦った海野平の合戦に敗れ、上州に逃亡するも、その2年後、仇敵武田晴信(信玄)に仕え、信濃先方衆となった。ただただ本貫地の真田郷を取り戻したいという目的のために、恩讐の念を越えたのだ。


 以来、幸隆はかつての地縁・血縁を生かして、信玄の信濃攻略戦線の最前線に立ち、難攻不落の砥石城をはじめ、敵の山城を次々と陥落させる功名をあげた。


 幸隆の面白いところは、この時代の武将に先駆けて間諜戦を駆使した――つまり、情報を重んじたことであった。猪武者のごとき勇猛、剛直が尊ばれる時代にあって、幸隆が謀将としてなしたその独自性は瞠目すべきものがある。


 間諜を重視した幸隆は、戸隠、伊那谷、上州吾妻などの修験者や忍者との結びつきを強め、彼らを配下に置いた。


 これはあまり知られていないことであるが、忍術は信濃が発祥地である。次回はそのことについて余談ながら少々述べさせていただく。


 

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