第76話 海野六郎―3
矢沢三十郎は重ねて問うた。
「この館の主に命じられて警固しておるとな。その主とは誰ぞ。まさか、昌幸さまではあるまいのう」
追い詰められた六郎が、
「うっ、うるさいっ!いずれにせよ、ここを断じて通すわけにはいかぬ。
「この若造めが!」
と、三十郎が馬から降り、櫓門へと足を向けた。こうなれば、力づくで門をこじあけるしかない。
次の瞬間、大気を裂いて矢が飛来した。
しかも、三十郎の足もとから二寸先の地面に、三本の矢がつづけざまに突き刺さったのである。
怖るべき超絶技であった。
「門に近寄ると命はないぞ。去ねいっ!」
海野六郎の威嚇の声が上から響いた。
――そのとき。
騎馬の群れのうしろから、最前列に出てきた女がいる。
着古した藍染めの筒袖に、黒革の短い四幅袴をはき、腰には長めの棒手裏剣を帯びている。
一瞥、男と見まごうような身形であるが、その眉目には凛たる美しさがあった。
女が櫓門に向かって声を張り上げる。
「海野六郎どの。春の一別来、久方ぶりじゃ。なかなかに元気そうではないか」
「ひ、ひっ、
六郎の声がうわずった。
その声を聞いた火草という女が、六郎に笑みかけた。
美しく整った唇に、小さな糸切歯が見えこぼれている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます