第63話 筧十蔵―1
大兵の三十郎の背後に隠れるようにして、蓬髪の男が神妙に畏まっている。
男が狼狽ぎみの声を出した。
「えっ、わしでござるか。わしの名は、
十蔵に注がれるお亀の方の眼差しがやわらかい。顔に数条走る向こう傷が気に入ったのだ。
お亀の方と視線が合った十蔵は、思わず居ずまいを正し、深々と低頭しつつ申し添えた。
「なれど、困り果てたことに今は空腹を抱え、浪々の身でござる」
お多福顔のお亀の方が、大きくうなずく。
それを上目遣いで見るや、
「まことに
ここでお亀の方がニッと口の端を上げた。
すかさず十蔵が
「できれぱ酒も頂戴できればと存ずる」
と、言葉をつづける。
筧十蔵という男、なかなかに
お亀の方が、その丸々とした腰をゆらりと上げ、
「では、こちらへ参られませ」
と、
美しい裏庭をのぞむ奥座敷には、三十郎と幸村の二人が取り残された。
しばし、座は無音に帰した。
その静寂を破って、三十郎が口を開く。
「今しがたの筧十蔵とやら申す者のことでござるが……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます