第53話 毘沙門天の眷族―6
佐江の異様な変貌に、わっぱどもがどよめいた。
と――。
血に染まった佐江の形のよい唇が、風にそよぐ赤い花びらのように、震えつつ開いき、幸村に向かって神宿りのごとき言葉を紡ぎ出したのである。
「はばかりながら、
あまりの事の成り行きに、二人を見守っていた誰もが絶句した。
いかに佐江が真田家血縁の者とはいえ、所詮、幸村より年若の妹分にすぎない。そのような者が、「母さま代わり」とは笑止な言い
誰もが、幸村の言葉を予感した。
「
という不快の念を
ところがなんとしたことであろう。
幸村の口は真一文字に結ばれたまま、ひと言も発しないばかりか、その頬にはうっすらと光るものが、ひと筋流れている。
佐江は幸村を抱きしめ、耳元につぶやいた。
「わたしめが弁丸さまを守ってご覧に入れまする。お祖父さま、お父上さま同様、立派な将となられ、いつの日か、必ずや日ノ本一のもののふになられませ」
この日、この時、幸村の鼓動は佐江のそれと重なり合い、佐江の熱い血汐は幸村の中に奔流した。
望月六郎はこの二人の様子を見て、独り得心に至っていた。
「夜叉は、軍神毘沙門天の
宿命の物語のはじまりであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます