第47話 命、一途―5

 わっぱどもの中には、鎧通しや苦無を帯びているだけでなく、短槍や半弓を携えている者すらいた。それら、およそ子供らしくない得体のしれない集団が、じわじわと包囲網をせばめてくるのだ。


「むっ」

 一瞬、佐江は後ずさりしかけた。

 が、胸に秘めた激しい気性と矜持がそれを許さなかった。

 

「われは夜叉姫なり。断じて、おじけぬ。ひるまぬ」

 胸のうちでおのれに言い聞かした佐江は、切れ長の双眸をみひらいて、わっぱどもを毅然たる態度で見回し、弓の元弭もとはずをハシッと地に打ち立てた。


 そして、凛とした声を張り上げ、誰何すいかしたのである。

「そなたら、いかなる者どもか」


 この凛呼たる一声に、一人の年嵩の少年が、わっぱどもの群れを掻きわけるようにして現れた。かしら株とあきらかに見分けられる端正な面立ち、姿形――鹿革をなめした袖なし羽織をまとい、伊賀袴の上帯には鮫柄の腰刀を帯びている。


 その少年は、佐江の前に出て、一揖いちゆうした後、口を開いた。

「卒爾ながら、お肩口の白き鷹から察するに、矢沢の佐江姫さまとお見受けいたす。われらは……」

 

 その言葉が終わらぬうちに、わっぱの群れがどよめいた。

「矢沢の鬼姫さまだに!」

「狼の目をくり抜いた夜叉姫さまずら」

「あちゃー、おっかないずら」


 かしら株の少年は、それらの騒ぎを手で制した。たちまち、山麓は無言の静寂しじまと化した。


 少年の美しい声が響く。

「それがしは、佐久望月家のせがれにて、望月六郎と申す者。また、この者らは根津村の下忍のわっぱどもにござる」


 それから一拍の間を置いて、寿老松の頂きを指差した。

「また、あれにおわすは、弁丸さまにございまする」

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