第46話 命、一途―4

 佐江は目をみはった。

 群れをなして次第に近づいてくるもの。それは猿ではなく、佐江同じ年頃の子供であった。


 男女とりまぜて、ざっと50人。思わぬ成りゆきに、茫然と立ちすくむ佐江を、わっぱの群れがワッと取り囲み、山麓の静けさは一気に破られた。


 佐江の鹿の子絞りの美しい小袖に興奮した女児らが、訛りの強い土語を口々に言い放つ。

「どこのわっぱずら」

「赤けー、べべ来て、すべっけー(きれいだ)」

「うわっ、鷹じゃ。白い鷹を連れておるだらー」


 一人の女児が駆け寄り、佐江の小袖にふれようとしたときであった。

 飛雪丸が「ピーッ」と鋭い鳴き声を発し、女児は思わず手を引っ込めた。

 飛雪丸は警戒をゆるめない。女児を睨み据えたその眼には、あからさまな敵意を含み、今にも飛びかからんばかりの気配を示していた。


 佐江はふところから渋紙でつくった鷹用の頭巾を取り出し、飛雪丸の頭にゆっくりとかぶせた。鷹は視界をさえぎられると、猛りが鎮まるのである。


 さて――と、佐江が四囲に目をやれば、わっぱのどの顔も薄汚れている。中には、青洟を垂らし、頭髪にシラミをうっすらと浮かべている者もいる。ほとんどの者が、ボロどうぜんの弊衣をまとっていた。


 が、里人の子にしては異様である。

 半数を下らぬ者が、ワラ縄を巻きしめた腰に、粗末な拵えの打ち刀、鎧通しなどを

帯びているのだ。後ろ腰に、忍具の苦無をのぞかせる者も二、三を下らない。


 それらの胡乱なわっぱどもが、用心深く佐江に迫り、その囲みを一歩一歩、せばめてくるのだ。

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