第42話 龍の末裔―3

 無口なのは子供たちばかりではない。

 根津村全体が口を閉じた村なのである。


 この村の草の者らは、基本的に野外で声を発しない。互いに杣道そまみちや野良で出遭っても、下忍同士は声を出さず、会話するように訓練されているのだ。


 では、どうするかというと、今でいう手話のような動作や読唇術を使い、情報や意志を伝え合うのだ。他国の忍者や間者に、会話の内容を盗み取られないためであった。


 根津の村の下忍の子らが、幼き頃より、こうした特有の掟や様々な術を身につけたということは申すまでもない。この村で生きる幸村もまた然りであった。


 近在の小わっぱの一団が「若」と仰ぐ幸村の仕草ひとつ、目配せひとつから、意のすべてを汲み取り、日々野山を群れ動き、駆けめぐった。


 その軍団のごとき様相は、養父の根津甚平をして、

「まさに壮観。虎の子は生まれながらにして虎。将の子は幼き頃より将であることよ」

 と、感嘆の言葉を漏らしめた。


  佐江姫と幸村が初めて出会ったのは、長篠の戦いより2年後のことである。信濃の山々があでやかな錦繍に染まり、どこまでもひろがる蒼穹に一据ひともと白鷹はくようが待っていた。

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