第41話 龍の末裔―2

 一徳斎こと真田幸隆は、根津村で幸村の姿を目におさめた数日後、砥石城にて不帰の客となった。孫たる幸村が葬列に参加したのは言うまでもない。


 虫の知らせであったのか、幸隆は赤子の頃、一度抱いたきりの孫会いたさに、先陣から駆けつけたのであった。


 幸村は祖父幸隆の穏やかな死に顔に掌を合わせつつ、胸のうち深く誓った。

 ――お祖父さま、形見のお言葉を忘れず、「わが時」を心して待ちまする。


 今はいつか来る「天翔ける時」を待つのみ。時至れば、われは必ず蛟龍から本物の龍となってみせる。


 少年幸村は、祖父幸隆の言い遺した言葉をまっすぐに信じた。しかし、その形見の言葉が果たしていかなる運命を示唆するものなのか。龍となり、天の高みへと翔け昇る日はいつ到来するのか。この頃はまだ分かりようもない。


 幸村は成長するにつれ、その魅力は根津村のわっぱどもをおのずと吸い寄せた。


 幸村自身はおそろしく寡黙な少年であったが、どの童たちとも分け隔てなく接し、ともに笑い、ともに喜び、そしてあるときはともに泣いた。自分より幼き者には、ことに優しい眼差しを向けた。


 幸村に従うは、根津村の草の者の子らである。それは、子供らしさをまったく感じさせぬ沈黙の集団であった。常に50名ほどの集団で野山を群れ動くとき、だれも言葉を発しないのである。

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