第38話 武田家滅亡―2

 勝ち戦さに驕る武田勝頼の態度に、信玄以来の譜代重臣らは、

「御曹司の四郎どの、あぶなげなるかな」

 と、一様に眉をひそめた。


 軍議の席上、諫言かんげんもした。

「ここ数年来、戦さに次ぐ戦さでございましたゆえ、兵も民も疲弊しておりまする。しばらくは、農民どもに領内の五穀豊穣に力を致さしめ、まずは国力を回復することこそ肝要かと存じまする」


 だが、勝頼は聞く耳を持たなかった。


 翌天正3年(1575)4月、勝頼は1万5千余の軍勢を率いて、三河の長篠ながしの城(愛知県新城市)を攻め、5月には設楽原したらがはらで織田・徳川連合軍3万8千余の大軍と対峙した。


 当然、信玄以来の宿将らは、勝頼に退却を進言した。

「敵勢はわれらの倍以上。これでは戦さになりませぬ。退路を断たれぬうちに、ここはひとまず甲斐に戻り、捲土重来を期しましょうぞ」


 これに勝頼は冷笑で応じた。

「ふん、臆したか。この勝頼、楯無御旗たてなしみはたに誓ってひるむことなく戦い、信長の首を今日こそ刎ねてみせようぞ。臆病者は甲斐に戻るがよい」


 ここまで言われれば、譜代の重臣老臣らは、

「もはや死ぬまで」

 と、全員、設楽原で討ち死にの覚悟を胸に秘めた。


 翌日、勝頼は馬上、采をふるった。

「者ども、かかれいっ!われら武田騎馬隊は、天下無双ぞ」

 言下に、武田軍は喊声かんせいをあげ、織田軍に向かって突進した。

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