第26話 幸村の出自―2

 さて、武田信玄は股肱の臣、真田昌幸に駿河の調略を命じた。


 これに打てば響くように応えた昌幸は、千代乃と配下の主だった歩き巫女を砥石城に呼び寄せ、このように前置きして意中を語りはじめた。


「今川方の武将ども、義元公亡き後、浮き足立っておるとか。しかも、跡目を継いだ氏真どのは、相も変わらず、連歌、茶会、蹴鞠などにうつつを抜かし、その柔弱ぶりをうとむ家臣、二、三の者にあらずと聞いておる」


 これに、歩き巫女頭の千代乃が応える。

「はい。駿河の国には今や氏真公に対する不満があふれております。先代義元公が桶狭間で討たれたとき、すぐさま仇討ちの軍を挙げ、信長どのの首を刎ねるべきでございました。それがムリと申すならば、大軍にてせめて知多半島をかすめ取り、伊勢の海をおさえ、織田家の交易の利を遮断することが肝要。さすれば、信長どのの金蔵はカラになり、織田家は自然、立ち枯れと相成りましょう」


 この千代乃の弁に昌幸が破顔する。

「さすが千代乃どの。卓見でござる。さて、それでじゃ。皆の衆に、寝返りそうな今川方の武将をしかと探ってもらいたい。その後、仕上げとなる内応の起請文は、この昌幸がおのおのの武将にひそかに会い、直々に頂戴してまいる。これ、このとおり、よろしく頼み入る」


 昌幸は腰が低い。草の者らにも、丁寧に頭を下げて頼み込んだ。

 千代乃が凛とした声を張り上げた。

「巫女衆、命を賭けて励むのじゃ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る