第23話 歩き巫女―2

 望月千代女の跡目は、娘の千代乃が継いだ。


 亡き千代女は、歩き巫女や近在の村人らから「お方様」とあがめられていた。甲賀流くノ一の頂点に君臨し、かつ妖艶な美女にあらがう者などいるはずもない。


 しかしながら、その後継である御寮人ごりょうにん千代乃はいまだ15歳。海千山千、魑魅魍魎のごとき得体のしれぬ技を持つくノ一を十分に統帥できようはずもない。


 畢竟ひっきょう、千代乃は真田昌幸と密につながり、その力を背景に「甲斐信濃巫女道」のくノ一を率いることとなった。


 折しも真田家では当主の幸隆が病み、武田信玄は側近として近侍していた昌幸に真田家の家督を継がせた。


 幸隆が病んだ原因は、戦さ疲れであったろう。

 砥石城を落として以来、幸隆は上州でもっとも要害堅固な山城である岩櫃いわびつ城を皮切りに、嵩山たけやま城、箕輪みのわ城などの城を陥落せしめ、西上野こうずけの諸将を真田家の麾下きかに置いた。


 いずれも敵情を探り、内応者をつくったのが、勝利の原因であることは言うまでもない。幸隆は角田新右衛門ら吾妻あがつま出身の忍者や、戸隠・飯縄いいづなの山伏らを束ねて、調略に用いていた。


 戦国のこの時代、乱波らっぱ透波すっぱ突波とっぱ、草などと呼ばれた忍者の数は、信州と上州だけでも2千人を数えたといわれる。


 つまり、真田昌幸は、千代乃率いるくノ一集団に、幸隆以来の真田忍び、山伏らを掌中におさめたことになる。

 

 そしてこれこそが、昌幸の力の源泉となり、謀略の系譜は幸村へと継承されることになる。

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