第22話 歩き巫女―1

 望月千代女は、信玄の下命に従い、ひとまず、歩き巫女の修練道場をもうけた。それが、東信濃の小県郡祢津ねづ村(東御とうみ市)古御館につくられた「甲斐信濃巫女道」という道場である。


 千代女はここに見目麗しい少女のみを自ら選り抜いて集め、訓練を施した。


 少女たちを歩き巫女にするための訓練は多岐に渡った。

 その一、卜占術。

 戦国時代の武将たちの多くは迷信深く、合戦にのぞんで吉凶占い求める。

 その二、降霊術。

 青森・恐山のイタコのように、死者の霊を招き寄せる。口寄せともいう。

 その三、調伏術。

 求めに応じて、人を呪い殺す調伏祈祷を行う。

 その四、かんなぎ

 神降ろしの舞を踊り狂い、神意神託をうかがう。

 その五、合歓術

 一夜のとぎを請われたとき、門外不出の淫技で男を極楽の境地へと誘う。

 その六、毒飼どくかいの術

 酒や食物に毒を盛り、敵将を毒殺、あるいは病に陥らせる。

 その他、読心術、潜伏術、変装術、縄抜けの術など、くノ一特有の術を完膚かんぷなきまでに叩き込んだのである。


 やがて6年の歳月が過ぎた。

 歩き巫女として訓練された少女たちは、妖艶なくノ一として諸国に放たれた。その総数三百人余。いわゆる「ノノウ」と称される巫女集団である。


 そして、永禄10年(1567)をけみした頃、思わぬことが起きた。巫女頭の千代女が急逝したのだ。

 

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