第18話 望月千代女―1

 幸村の父昌幸は、この幸隆の三男として生まれた。

 源五郎と名乗る幼少の折、人質として甲斐武田氏の本拠古府中に送られ、やがて信玄に幸隆譲りの智略の才が認められ、腹心としての寵遇に至った。


 後には、家康すらも手玉に取り、戦国きっての謀将とすら称された。では、その昌幸の智略謀計は、果たして何処を源泉として湧き出たのか。


 その謎をひもとくには、話はいささか長くなるが、真田氏と望月氏の宿縁から語らねばならない。


 真田氏の遠祖は、いにしえより信濃の小県郡、佐久郡などを領有してきた滋野しげの一族といわれている。滋野氏は、清和天皇の子、貞保さだやす親王なる盲目の皇子おうじを始祖にいただく古族であり、その一族から海野氏、望月氏、根津氏に分かれたといわれるが、この三氏を滋野御三家という。ちなみに、真田氏自身は、おのれの家系を海野氏の流れとする。


 真田氏と同族である望月氏は、北佐久の望月城を居城とし、甲賀五十三家筆頭である甲賀望月氏の本家筋に当たる。神変しんぺん怪奇譚かいきたんで有名な甲賀忍者の甲賀三郎兼家かねいえは、甲賀望月氏の始祖であるが、三郎はそもそも信濃望月氏を出自としているのだ。


 伝説的な三郎の怪奇譚の詳細は省くが、時の望月城主、望月盛時もりときの妻は、甲賀望月氏から嫁いできていた。彼女は父祖伝来の忍びの奥義百般を余すところなく伝授された「くノ一」であり、しかも妖艶な美女であった。


 この盛時の妻の名を千代女ちよめという。

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