第15話 軍略の血筋―2

 信濃国小県ちいさがた郡(現在の上田市)に、砥石といし城という山城がある。東太郎山の尾根上に築かれた難攻不落の城である。


 天文19年(1550)8月、武田晴信(信玄)は、この小城を7千余の兵で、がむしゃらに力攻めをしたが、寡兵かへいを率いて守る城主村上義清よしきよに武田軍は大敗し、千人もの士卒を討ち取られた。いわゆる「砥石崩れ」という手痛い敗北を喫したのだ。


 そもそも砥石城は、峻険な要害の地にあるだけに大軍で力攻めしても、その効果は薄い。崖下からの攻撃は、頭上からの弓矢、石つぶて、岩石落とし、丸太落とし、さらには熱湯や煮え油攻撃にさらされる。攻撃側にとって圧倒的に不利な地形の山城なのだ。


 砥石崩れの後、武田晴信は懊悩おうのう煩悶はんもんしていた。

 実は二年前の合戦でも、晴信は村上義清に手もなく敗れていた。晴信にとって義清は天敵であり、実に苦手な相手であったが、信濃を手中におさめるためには、ぜひとも砥石城を陥落させねばならない。

 しかし、義清に勝てるかというと、まったく自信がないのであった。


 ある日、真田幸隆は、主君武田晴信の本拠たる甲斐古府中こふちゅう躑躅つつじヶ崎館に出仕し、御前にまかり出て言上した。

「お屋形様、砥石の件、それがしにお任せいただけませぬか」


 晴信は幸隆の言葉に目をいて驚嘆した。

 幸隆の率いる真田軍は、手勢わずか百名にも満たない。そんな寡兵で、あの要害の砥石城が落とせるわけがないではないか。

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