第6話 これで僕も冒険者

 ――ふーむ、長くなりそう……。

 今の僕はVIPの師匠と一緒に居ないので、王都から出る時は簡単でも、入るのには長い列に並ばなくてはいけない。

 荷物検査と入場料の支払いが必要なのだ。


 そのため僕は今、列に並びながら暇を持て余していた。


 よし、錬金でもするか。


 僕はそう決めて魔法鞄から回復薬の材料を取り出し、【錬金】を始めた。

 流石に金塊の生成は悪目立ちしそうなので自重している。


「――おや、それはもしや【錬金】ですかな?」

 後ろに居たお爺さんが僕に声を掛けてくる。白髪の老人ではあるが、身に纏う雰囲気はただ者ではない感じだ。


「ええそうですよ。何もせずに暇を持て余すのは性に合わないので、スキルのレベル上げでもしようかと思いまして」

 僕は錬金を続けながらそう返事をする。


「ほほっ、熱心なのは良いことです。昔、儂を助けて下さった恩人も【錬金】スキル持ちでしてのぅ……」

 その後もお爺さんの話は続く。お爺さんも暇なんだろう多分。


「お爺さんはどうして王都に来たんですか?」

 僕はお爺さんに問う。

 僕が並んでる列は王都に住居を持たない外部の人間が並ぶ列なので、お爺さんも何かしらの用事があってここに来ているはずなのだ。



「ああ失敬、儂の名前はアルデバラン。儂はただ孫に会いに来ただけですじゃ。孫娘が王立学園に入学したらしくてのう……そのお祝いですな。

 今はちょうど貴方くらいの年齢でしたかのう……」

 王立シルフェニ学園。

 6歳から12歳の生徒が通う初等部・12歳から15歳の生徒が通う中等部・15から18歳の生徒が通う高等部に分けられるらしい。

 僕と同じ年齢ってことは高等部なのかな? 高等部からの入学は中々難しいって師匠が言ってた気がする。


「僕は錬金術師見習いのアルカです。……それは凄いですね。僕なんかこれくらいしか能がなくって」

 出来上がったポーションに目を向けて言う。


「ははっ、素晴らしい才能ですじゃ」



 その後もお爺さんと話して暇をつぶした。



 ◇


「こんにちはー、この周辺の魔物の情報をお聞きしたいのですが」

 僕は冒険者ギルドの受付……オフィリアさんにそう言った。


「あらアルカさん……魔物の情報ですか?」

 オフィリアさんは僕が来たことに驚いた様子だ。

 まあついさっき「また四か月後に……」なんて言ったのにすぐ会いに来たんだからビックリだろう。


「はいレベルを上げたくて……今の僕のレベルが2しかないので丁度いい魔物が居れば聞きたいなと……」

「なるほど、そういうことでしたか……それでしたら、西の門を出た先の草原に出現するホーンラビットなどがおすすめですね」

「さっきそれを倒してたんですけど、どれも一発で終わってしまって退屈だったので他に何か居ないかなと。

 次の強さになると一気にレベルが変わる感じですか?」

「いえ、そんなことはありません。それでは北の門を出て街道を少し進んだ先にあるゴブリンの森などはどうでしょうか?

 ゴブリンは群を成しますが、単体の危険度はホーンラビットと同じF級です。王都周辺は魔素が少ないため、上位種が発生することもなく、イレギュラーな事態が起こりづらいので比較的安全に狩りができますよ。

 ただ、ホーンラビットと違い、魔石しか買取ができないので数を熟さないとあまり収入が見込めませんが……とはいえアルカさんには誤差程度ですかね」

 オフィリアさんが丁寧に説明してくれる。

 僕のメインの収入は魔物討伐ではなくポーションの作成なので、オフィリアさんはそう言ったのだろう。

 オフィリアさんは知らないことだが、今の僕は【錬金】のスキルもあるので尚のことだ。


「南の門を出てしばらく進むとD級迷宮ダンジョン『ニコラの洞窟』があります。徒歩で行くには少し距離がありますが、定期便が巡回しているので心配ありません。

 こちらは浅い階層であればE級の魔物なども出現するので、ゴブリンの次のステップアップ先としておすすめです。

 ただ、迷宮ダンジョンなので冒険者資格証が必要となりますが……」

 新しくお作りしましょうか? と聞いてくる。登録料は5000ギルかかるらしい。

 冒険者ギルドには何度も来たことがある僕だけど、ポーションの納品だけしてる部外者なので資格は持っていないのだ。


 この先、師匠みたいに自分で素材集めをしたいことを考えると、作っておいた方がいいと思ったので「お願いします」と伝える。


「わかりました。アルカさん、読み書きはできましたよね?」

「ええ、一通りは教わってます」

「流石です、こちらの紙に冒険者としてのルールやシステムが載っています。

 こちらの紙は冒険者活動を通してのリスクを理解し同意する旨を確認する同意書です。内容の確認が済みましたらサインをお願いします。

 それでは、ギルドカードの発行手続きをしてくるので少々お待ちください」

 そう言って紙を何枚か渡してくれたオフィリアさんは軽く説明をした上で席を離れた。



 どれどれ……。

 冒険者のランクシステム:冒険者のランクはF級から始まり、依頼をこなしギルドポイントを貯めることでE級、D級、C級、B級、A級と上がっていきます。

 冒険者ランクより一ランク下の依頼では得られるポイントが半分になり、二ランク以上低い依頼ではギルドポイントは獲得できません。


 依頼の種類:依頼は主に『討伐』『納品』『護衛』『雑用』の四種類があります。

 失敗時にギルドポイントのマイナスや罰金が科される場合もあるので、依頼書をよく確認してから受注するようにしてください。


 など、他にもパーティについてやダンジョンについてなどが簡単に説明されている。

 冒険者同士での暗黙の了解なんかは僕は詳しくなかったので、簡単にでも説明がされているのはありがたい。


 同意書は主に依頼の失敗時に科される罰金を支払えなければ、借金、最悪奴隷落ちもあることや、ダンジョンでの死亡リスクがどれほどあるかということだった。

 毎年注意喚起はしているものの、ランクの低い冒険者のうち一割くらいは死んでしまうらしい。

 高位の冒険者となれば死亡率はガクっと落ちるが、そこに至れるのはごく限られた人間だけだろう。


 まあこれらに関しては知識として大まかに知っているような内容だったので、問題ない。

 僕はサインを書いてオフィリアさんを待つ。


 少しすると、オフィリアさんが帰ってきた。

「すみません、お待たせしました。同意書へのサインはお済みでしょうか?」

「はい、これでいいですか?」

 そう言って僕はオフィリアさんに渡された紙を返す。


「はい、あ、こちらの紙は大丈夫ですので確認用としてお持ち帰り頂いて結構です」

 同意書以外の紙は僕に返ってくる。


「大丈夫そうですね……それでは、こちらがギルドカードの原型となります」

 そう言ってオフィリアさんは手のひらと同じくらいのサイズのガラス板を僕に見せる。

 ガラス板には『冒険者ギルド資格認定証』という文字と『会員番号』が刻まれている。


「こちらに魔力を流すことで『名前』と『称号』そして『冒険者ランク』が浮かび上がり、持ち主が固定されます。浮かびあがった文字は30秒ほど経過すると消えますが、持ち主が魔力を込めることによって再び浮かびあがりますのでご安心ください。

 ギルドカードはこの性質を利用して本人確認としても使えます」

 オフィリアさんの説明を受けてから、ギルドカードに魔力を流す。

 すると本当に僕の名前が新たに浮かび上がった。魔力文字かな? 魔法陣なんかと同じく独特の光を放っている。

 ちなみに僕は称号を持っていないので称号は浮かび上がってこない。


 少しすると魔法文字は消えた。


「紛失した場合、再発行に10000ギル必要となるのでご注意ください」

 というオフィリアさんの言葉に僕は「はい」と返事をする。


「以上で登録作業は完了となります。他に何か質問はありますか? 魔物のことなど……」

「いえ、とりあえずは大丈夫です。今日は色々とありがとうございました」

「またいつでもお越しください」

 僕はオフィリアさんにお礼を言ってから。冒険者ギルドをあとにした。


さーて、今日中にもっとレベルを上げるぞー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

錬金術師に不可能はない くちばしの子 @beak

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ