あとがき

「お稲荷さんのいるところ」を最後までお読みいただきありがとうございました。初の短編連載が完結いたしましたので制作に当たってのお話をいたします。

以下、ネタバレになりますので展開や内容をお楽しみいただきたい方は読了後にお読みください。






※   ※   ※






狐憑きの話を思い付いたのは2ちゃんねる(今は5ちゃんねる)掲示板のお話がきっかけになります。留守宅に電話をかけると青年が出て家の手伝いをしてくれる、というお話で心捕まれました。


何か書きたいなと漠然と思っていたのですが、ならば家に祠を建てるところから始めてしまえと幕末、富子のお話が始まります。


富子の嫁いだ家は御家人、つまりはお侍さんで身分としては下級。儲けてる町人とどっこいどっこい、若しくはそれ以下の生活をしていました。

ここでおや?と思われたかたもいらっしゃるかもしれません。

そもそも稲荷とは豊醸や商売繁盛を願って建てるものであり侍には全くの無縁のものでした。ですが富子の義理の祖父儀助はなりふり構わず狐を祀りました。きっと回り近所からはおかしなものを見るような目で見られたことでしょう。狐に憑かれた侍だとバカにもされたことでしょう。

そして祠を建てたものの儀助は逝き、喜兵衛は倒れ、儀一郎は無役になり家に帰らず。侍の家としては到底食べていけませんでした。

そこで富子の内職が一家の大黒柱として機能したのです。これは当時の御家人の妻もしていたことで傘や朝顔を育て売り生計の助けにしていたそうです。そして儀助の建てた祠が力を成し、富子の商売は繁盛した、という設定になっております。


次の舞台は大正、春治のお話です。

富子の孫にあたる春治。彼の父は日露戦争に出兵しております。家に帰らず報せもなく心配する子を心配し狐が化けて出てきました。戦争は人を人ではなくしてしまう。そんなお話です。

それと化けて出てきた狐の装いですが真夏に羽織袴を着ていましたが季節外れでとんちきな格好になるようにしました。祠の狐たちはどこが人とは違った生き物にしたかったのです。


続いては昭和20年3月10日、清子のお話です。

日付を見て気づかれた方もいらっしゃるかと思います。

そして、このお話を書くに際して資料として読んだ本があります。


※東京大空襲-昭和20年3月10日の記録-/早乙女勝元著

 岩波新書 ISBN4-00-415021-3

※地図で読む東京大空襲 両国生まれの実体験をもとに/菊地正浩著

 草思社 ISBN978-4-7942-2037-0


もともと清子たちの家は両国の近くにある設定でしたので隅田川近隣の資料が集められたことに喜んでおりました。

ですが中身は到底喜べるものではなく、何度心がえぐりとられるかと思うほど辛い内容でした。

早乙女さんの本には東京大空襲を経験した様々な方のお話が記録されています。

終わりはあっけなく訪れ、今まである幸せが一瞬で消え去りなにも残らないことの絶望をまざまざと見せつけられました。先達が残した言葉に耳を傾けることの大切さと、己の無知さに怒りすら覚えました。

この話では狐たちが起こした奇跡がありますが、その奇跡すら書くことをおこがましく思っております。奇跡を信じ現実と後悔と苦痛と絶望しか残らなかった人々のことを思うと、このお話は書くべきではなかったかもしれないと問答しています。

そういう意味でもまだ私は戦争の恐ろしさ残酷さ悲しさ愚かさを理解できていないのだと思います。とても恥ずべき事だと強く思います。


続いては可愛い子狐が出てきた茂のお話です。

先の戦争で燃え尽きた狐の代わりにやって来た子狐が奮闘(?)するお話です。

なぜ子狐なのかというと彼らの御上(ウカノミタマノカミ)の力そのものが弱っていて新しい狐に安定した霊力を与えることができないからです。とはいえ時は高度経済成長。自然は衰え公害が蔓延した時代です。そういう意味でもアニマ的思考が衰退し現実主義にベクトルが向いていった。そのために霊力を取り戻せなかった、という設定です。


最後に現代にもどりエピローグとなります。

プロローグに出てきた結衣の息子が主人公です。とはいっても幼稚園に上がる前の言葉も拙い子。それでも狐たちは成長を喜びます。

実は執筆を始めた頃はエピローグの食べ物をまだ考えておらず、祖母和子、母結衣、息子悠翔、親子三代がみんなで食べられるものはと考えたときにきつねうどんでまとまりました。

稲荷で始まりきつねで終わる。最初から最後まできつね尽くしです。


一族の行く末を見続けている狐たちですが性別はありません。名前も付けて無いのですが識別のために「なのつく狐」「ねのつく狐」「よのつく狐」と分けています。


その時代からしたらとんでもないこと、そぐわないことをしていた一家ですが、辛辣なことを言う人間は一切排除いたしました。

なぜあえてそのような人物像にしたのか、なぜ主人公たちに口出しする人間を書かなかったのかは是非読者の皆様に考えていただきたいと思います。


では次の作品をお待ちください。

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お稲荷さんのいるところ 鳳濫觴 @ransho_o

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