第35話 写真撮影


「はぁ。なんだか疲れちゃった」


 兼近さんは俺の部屋に入るなり、お気に入りのソファーに身を沈めた。


「だ、大丈夫ですか?」


「冴島くんが外に行こうっていうからこうなったのよ。どう責任を取るつもり?」


「すみません。何か欲しいものありますか?」


「甘いココアが飲みたいかな」


「それなら家にありますからすぐに作りますね」


 俺はすぐさまホットココアを作り、差し出した。


「ありがとう」


 ズズッと一口含んでフゥと息を吐く。


「それより冴島くんさぁ」


「はい?」


「この格好、暑いからそろそろ脱いでいいかな?」


「まぁ、いいですよ。元々兼近さんが好きで着ていたわけだし」


「そう、じゃ遠慮なく」


 と兼近さんはその場を犬の着ぐるみを脱ぎ出す。


「ちょ、ここで脱ぐんですか?」


「大丈夫だよ。シャツと短パン履いているし」


 兼近さんは手足が露出した格好になる。先ほどよりエロく見えるのは気のせいだろうか。


「あの、兼近さん。犬の格好ではないですけど、犬になるって約束はまだ継続中ですよね?」


「まぁ、今日一日って約束だしね。え? まだ何かさせたいことでもあるわけ? 勘弁してよね。私は冴島くんの玩具じゃないんだけど」


「すみません。でも、せっかくだからもう少し付き合ってくれたら嬉しいというか」


「せっかくって何よ」


「あ、いや……その」


 やばい。ここで兼近さんに機嫌を損ねたらこの後がやりづらい。

 ただでさえ先ほどの件で機嫌を悪くしているのに余計なことを言って更に機嫌を損ねてしまえば元も子もない。


「俺、兼近さんの犬の姿、可愛いと思いました。ずっと見ていたいくらいに。さっきの衝動はあまりにも可愛かったというか、可愛いあまり虐めたくなったというかとにかく見下しているわけではなく独り占めしたいがためのものです。だからもう少し付き合ってくれませんか? お願いします」


 俺が頭を下げると兼近さんは腕を組んで横を向きながら返事をした。


「しょ、しょうがないな。そこまで言われたならもう少しだけ付き合ってやるか。暑いけど、これを着ている方がいいってことでしょ?」


「は、はい。お願いします」


「全くなんでこんな遊びを提案しちゃったんだろ、私」


 文句を言いながらも兼近さんは犬の着ぐるみパジャマを着てくれた。


「はい。着たよ。これで文句ない?」


「はい。可愛いです」


 可愛いと言えば兼近さんは顔を赤めて外方を向く。

 照れているその姿もまた可愛い。


「じゃ、何がしたい? 次は外に出る以外のことでお願い」


「えっと。では、写真撮影をさせてもらうのは?」


「……撮ってどうするつもり?」


「別に自分で鑑賞して楽しむだけですよ」


「ネットに上げて恥を晒すつもり?」


「しません。しません。そんなこと絶対にしませんよ」


「まぁ、冴島くんがそんなことをしないっていうのは分かっているけど、写真に残すのはちょっとなぁ」


「じゃ、顔を隠すのはどうですか?」


「顔?」


「マスクとかサングラスで顔を隠せば不安は無くせると思います」


「まぁ、それくらいならいいか。分かった。じゃ、目元はフードで隠して口元はマスクで隠すって条件なら写真撮影を許可するわ」


「ありがとうございます。なら早速しましょう」


 兼近さんにマスクを差し出して撮影が始まる。

 俺の指示通りのポーズを決めてくれて思いのほか、楽しめた。


「次は前屈みになって身体をくねらせて下さい」


「ねぇ、さっきからグラビアアイドルがよくするポーズばかりだけど、私をそれっぽく撮ろうとしている?」


「せっかくですのでそういうポーズが際立つかなって思って。似合っていますよ?」


「まぁ、スタイルには自信があるけど、着ぐるみを着るとスタイルもクソもないんじゃないかな? これだと男が望む部分が見えないでしょ」


「逆に着ぐるみで見えないラインがいいんですよ」


「冴島くんってそういう趣味?」


「そういうってどういうことですか!」


「別に。グラビアアイドルの気持ちが少しは分かった気がする。私としてはちょっと楽しいからどんどん注文してもいいんだぞ?」


「じゃ、次はブリッチして下さい」


「何でそうなるのよ」


 兼近さんは文句を言いながらも一応してくれた。

 ただ単に兼近さんに無理な体勢をさせて疲れさせているだけだが、それはそれで楽しめたのなら結果オーライだ。

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