第23話 長い一日⑥
「ふあぁ! よく寝た! あれ? 今、何時?」
兼近さんは伸びをしながら起き上がる。
「あ、兼近さん。おはよう。もう、二十時だよ?」
「え? 私、そんなに寝ていた? 通りでお腹が空いたと思ったよ」
「安心して。兼近さんの分も用意してあるよ」
「それは助かる。っていうより、二人は何をしているの?」
俺は馬になり速水さんはその上に乗る構図に突っ込まれてしまう。
「ちょっと電球が切れちゃって。変えようと思っていたんだ」
「そう。私がやってあげようか」
そう言って兼近さんは俺の上に乗って電球の交換をスムーズに行う。
「はい。出来た。さぁ、ご飯にしようか」
「あ、ごめん。もう食べちゃった」
「なんで待ってくれないの? 普通、一緒に食べるでしょ」
「だって兼近さん、よく寝ていたから」
「もういい。今日のご飯何?」
「ミートパスタ」
「また? まぁ、美味しいからいいけどさ」
文句を言いながら兼近さんは出されたミートパスタを食べる。
兼近さんが寝ている間に速水さんといかがわしいことをしていたのは内緒の話だ。二人で口裏を合わせた。
「さて、私はそろそろお暇させてもらうね」
速水さんは帰る支度をする。
「もう帰るの?」
「だってもう二十時過ぎたし、兼近さんのように家が隣じゃないからさ」
「そっか。送るよ」と俺は最低限の気遣いを言う。
「いい。一人で帰れるから。じゃあね。冴島くん。兼近さん」
「うん。また来てね」
「絶対くる」
速水さんは帰っていく。
居なくなった後に兼近さんは水を差すように言った。
「絶対くるだって。えらく冴島くんの家が気に入ったんだね」
「まぁね。居心地良かったかも」
「だよね。ここ以上に居心地いい場所、私知らないもの」
「はは。兼近さんはどうするの?」
「今日は別に配信しなくてもいいから時間あるよ」
「そう。俺としてはそろそろ一人になりたいかなと」
「させないけど?」
兼近さんはとことん俺の邪魔をしたいらしい。
「分かった。今日は兼近さんを優先するよ」
「本当?」
「あぁ、ただし今日まで。つまり二十四時を過ぎるまでだよ」
「意地悪だね。後四時間もないじゃん」
「それくらいあればいいでしょ」
「しゃーない。じゃ、付き合ってもらおうか。冴島くん。私の犬になりなさい」
「は、はい?」
「今からワンしか言ったらダメだよ」
「なんでだよ」
「コラ! ワンだけって言ったでしょ!」
「ワ、ワン?」
「よろしい。これより犬プレイを実行する」
ふふふ。と兼近さんの不敵な笑みが俺に恐怖を与える。
その後、俺は兼近さんに犬のプレイで遊ばれることになる。
今回、最大のわがままが炸裂してしまう。
SMプレイのような特殊な遊びになったことは違いないが、俺の中にある変な性癖が目覚めないことを祈るばかりだ。
「お手!」
「ワン」
「伏せ!」
「ワン」
「待て!」
「ワン」
俺は何をやらされているのだろうか。
兼近さんの唐突な思い付きに俺は付き合わされることになる。
そして、俺の長い一日が終わる。
散々な一日である反面、思い出に残る一日にもなった。
速水さん。また来てくれないかな。そんな思いが過っていたのは内緒の話。
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