第22話 長い一日⑤


「はい! では王様に一番がジュースを口移しする」


 王様ゲームは十周目を迎えた。

 兼近さんが三回目の王様を勝ち取り、命令はどんどん過激なものを要求する。


「はぁ、また私ですか。じゃ、失礼しますよ。兼近さん。命令ですからね」


「え、違っ。待って。ぐぶっ!」


 何故だが、兼近さんの命令する相手は速水さんになる。

 偶然か、意図的なのか速水さんは素直に命令に従う。


「ぷはっ。速水さん。強引すぎ」


「でも命令だから」


「はー。辞め、辞め。もう王様ゲーム飽きちゃった」


 言い出しっぺの兼近さんは投げ出すように床に転がる。

 現在時刻は十五時三十七分。

 何をするにしても微妙な時間だ。


「じゃ、次は何をしようか。速水さん。やりたいことない?」


「え? じゃ、勉強をしたいです」


「俺も賛成だ」


「じゃ、お二人さんはお好きにどうぞ。私は寝るから」


「寝るって今から寝ると夜が眠れなくなるよ?」


「寝むれないようにするの」


「ん?」


 兼近さんの答えに速水さんは首を傾げる。

 無理もない。兼近さんは完全な夜型だ。

 朝や昼間は睡眠に当てているのだろう。


「速水さん。兼近さんはほっておいて俺たちだけで勉強をしよう」


「まぁ、二人がそれでいいなら」


 昼寝をする兼近さんを他所に俺と速水さんは黙々と勉強を始める。

 お互い、別の教科をしていたのでしばらくの間、無言の時間が続いた。

 速水さんはチラリと昼寝をする兼近さんを覗く。


「兼近さんって綺麗だよね」と、速水さんは小声で言う。


「え、まぁ」


「好きにならない?」


「なるけど」


「けど?」


「兼近さんは恋愛に興味がないんじゃないかな」


「どうしてそう言い切れるの?」


「夢があるから」


「あぁ、言っていたね。結局何か教えてくれなかったけど」


「まぁ、そういうことだから今の兼近さんは恋に無縁だと思う」


「そういう意味では私も同じか。ずっと勉強している人生だし」


「学生ならそんなものじゃない?」


「でも、恋愛はしてもいいと思う」


「ま、まぁ、その件に関しては否定しないけど」


「ねぇ、二人だけで王様ゲームの続きをしない?」


「え? 二人で?」


 速水さんはとんでもない提案をする。


「お互いに王様をする二回だけ」


「ま、まぁ。軽いものならいいけど」


「じゃ、私から王様になっていいかな?」


「どうぞ」


「じゃ、命令です。王様の後ろを抱きしめながら勉強してください」


「何それ」


「王様の命令は?」


「絶対です」


 俺は速水さんの後ろから抱きしめた。

 暖かい温もりが直接伝わってくる。


「どう?」


「どうって言われても」


「私は少し安心する。冴島くんだからかな?」


「さ、さぁ」


「次は冴島くんだよ。なんでも言って」


「えっと。じゃ、キスなんて……」


「いいよ」


 速水さんはハグの状態のままキスをする。

 これはもうイケるところまでイクしかないのか。

 興奮が止まらなかった。でも、後ろで兼近さんが寝ているのでこっそり出来るところまでいった。


「速水さんって意外と……」


「真面目な人ほど意外と……かもね」

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