第21話 長い一日④


 割り箸を三善用意して先端に赤く塗ったものと『1』と『2』を書いたものを用意した。

 先端を手の中で隠して王様ゲームが始まる。


「私、王様ゲームやってみたかったんだよね」


「速水さん。ルール分かっている?」


「王様になった人が好きな命令を言って言われた人は逆らえないってゲームでしょ?」


「そうだけど、王様が変な命令をしたらやらないといけないんだよ?」


「え? このメンバーでそんな常識ない人いる?」


 それが居るんだ。金髪の美少女は常識が少し欠けているので何を命令するか分かったものではない。

 ここは兼近さんには何が何でも王様にしてはいけない。


「じゃ、始めよう。せーの! で、くじを引くよ。せーの!」


 パッと取ったものは『1』だ。

 と言うことは兼近さんか速水さんが王様ってことになる。

 いきなり嫌な予感がした。


「あ、私が王様だ」


 王様になったのは速水さんだ。

 兼近さんにならなくて一安心だ。


「悔しい。じゃ、速水さん。トップバッターお願いします」


「何も考えていなかった。何を命令すればいいんだろ」


「何でもいいよ。好きなことを言って」


「じゃ、一番が二番の耳を触る!」


 出だしの命令としてはまずまず。だが、王様ゲームの本質が分かっているような命令だ。


「兼近さん。失礼します」


「どうぞ」


 俺は兼近さんの耳を触る。

 柔らかい。ふにゃふにゃしてコリコリした触感だ。


「あ、い! いい」


 兼近さんは耳を触られただけなのに少しいやらしい声を漏らす。

 変なことをしているみたいな声を出すな。


「じゃ、次のゲームをしようか。せーの! 王様だーれだ!」


 次の王様は俺だ。よし。ラッキー。

 俺はこの二人に好きな命令をできる。

 過激なものをすると速水さんに引かれるので程よい命令が思いつかない。

 悩む中、俺は閃いた。


「よし。一番が王様の肩揉みをすること。そして二番が背中のマッサージをすること」


 どうだ。いやらしくないベタな命令であろう。


「つまらない命令ね。やらし」


 兼近さんは冷めた口調で言う。


「いいから早くやってよ」


「しょうがないな」


 兼近さんは俺の肩を揉んだ。


「いてて。痛いよ。兼近さん」


「え? もっと強く? しょうがないな」


「いてててててて。死ぬうぅぅぅ!」


 兼近さんの力は強すぎた。全然気持ちよくない。


「じゃ、次は私ね。冴島くん。うつ伏せになって」


「うん。お願いします」


「行くよ。ほっ! よっ!」


 速水さんは的確なツボを付く。

 気持ちいい! 一気に背中の疲れが取れた気がする。


「速水さん。上手だね」


「えへへ。実はおじいちゃんによくやっていたから慣れているんだよね」


「へーそれで。整体師さんになれるんじゃないかな?」


「本当? ありがとう。なるつもりないけど」


「はい。じゃ、次のゲームに行きましょう!」


 第三ゲーム。


「あの、これはいつまでやるの?」


「飽きるまで」


 終わらない予感がする中、次の王様を引いたのは兼近さんである。


「ふふふ。ついに私の番が来たわね」


「嫌な予感しかしない」


「さて。では命令です。二番が王様にハグをする」


 王様ゲームのそれっぽいやつが来てしまった。


「さぁ、二番は誰?」


「わ、私です」


 二番は速水さんである。


「ちっ!」


 何故か兼近さんは舌打ちをする。

 この王様ゲームはいつまで続くのだろうか。

 波乱の予感が絶えなかった。

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