第20話 長い一日③

 

 時刻は十四時を過ぎた頃である。

 タコパが終わり、落ち着つき、まったりした時間が流れていた。


「さて。これからどうしようか」


「どうしようって勉強に決まっているけど」


「決まってない。何で勉強よ」


 兼近さんは納得できないのか、少しふてぶてしくなる。


「兼近さんは好きに過ごして。俺と速水さんは勉強をするから」


「じゃ、始めちゃいましょうか。冴島くん」


「そうだね」


 二人で勉強をする背後に兼近さんは視線を送る。

 俺はなるべき気にしないようにしていたが、兼近さんは背中を摩ったり息を耳に吹きかけた。


「ちょ、兼近さん。何をするの?」


「別に。ホラ、手が止まっているよ。集中、集中」


「誰のせいだよ」


 気が逸れてしまったが、俺は再び勉強に集中する。

 だが、兼近さんと俺の距離は近い。ゼロ距離なのでは? と、思うほど密着しているような感覚だ。


「速水さん。ここの問題だけど……」


「うん。どれ?」


「えっと……」


 兼近さんは俺の太ももに手のひらを重ねた。

 そしてそれは徐々に上に伸びている。そこは禁断のゾーンに入るか入らないかギリギリのところ。


「兼近さん。近いんだけど」


「だから?」


「いや、ちょっと困るというか」


「どう困るか教えてよ」


「どうって言われても」


 そんな時だ。バンッと速水さんはテーブルに手を置いた。


「兼近さん。冴島くんが困っているでしょ。自分は勉強しないからって邪魔しないであげてよ」


「速水さんには関係ないでしょ?」


「関係ないって私の目の前で変なことしないでよ」


「別に普通だよ。ねぇ、冴島くん」


 兼近さんは手を俺の腰に回した。

 胸が当たる。俺の背中に柔らかい感覚が伝わってくるのだ。


「兼近さん」


「んー?」


「やりたいことがあるなら言って。同じ空間にいるのに仲間外れにするのはちょっと気が引けるから」


「そう。とにかく勉強はしたくないかな」


「分かった」


 俺はペンを置いた。


「冴島くん?」


「ごめん。速水さん。勉強は中断だ。皆で出来ることをしよう」


「まぁ、冴島くんがそう言うなら私は賛成するよ」


「ありがとう。兼近さんのやりたいことをやろう」


「本当に? じゃ、ゲームをしようよ」


「ゲームってうちにはゲーム機は無いよ?」


「別にそう言うものがなくてもゲームは出来るでしょ」


「例えば?」


「道具がなくてその場で出来るやつ」


「それが何かって話だよ」


「じゃ、王様ゲームっていうのはどう?」


「王様ゲーム?」


 兼近さんの提案は斜め上をいっていた。

 それはやらしい意味しか想像できないので俺は複雑な心境を抱えていた。


「へー。面白そう。私、やってみたいかも!」


 何故か、速水さんは話に乗ってきた。

 真面目な速水さんはその先にある意味を理解しているのか、心底不安だった。


「速水さん。そんなに無理をしなくても……」


「はい! じゃ、これより王様ゲームを開催します」


 兼近さんは仕切った。

 これより王様ゲームが始まろうとしていた。

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