第24話 汚部屋の清掃
「冴島くん! ヘルプ!」
いつものように兼近さんは慌ただしく俺の部屋に無断で入ってきた。
兼近さんが出入りするようになってから俺のプライバシーは守られることはないと思った方がいい。
「どうしたんですか。そんな大きな声を出さないでください。近所迷惑ですよ」
「そんな事より! 大変なんだって!」
兼近さんは俺との距離を詰めながら言う。
「……話を聞きましょう」
「助かる。実は近々、親が家に来ることになったの」
「そうですか。それは良かったですね」
「よくないわよ。私、元々家出して今の部屋に住んでいるって言ったよね」
「そういえばそういう事情がありましたね。まさか連れ戻しに来るってことですか?」
「その可能性が高い。親の出した条件をクリアして好き勝手しているけど、今になって家族総出で私の部屋に押しかけるって話になっているの。そうなれば最後、私は家に連れ戻されることになる」
「や、やばいじゃないですか。なんとかならないんですか?」
「今の生活で何も問題ないって分からせれば向こうも諦めると思う。でも、問題って発覚する点があれば強制で連れ戻されるのよ」
「問題って何が……あ!」
「冴島くん。気付いたようね」
「兼近さんの部屋といえば例の汚部屋ですよね?」
「この際、否定はしないけどまさにそれよ。あの部屋を見られたら間違いなく連れ戻す要因に入る。だからお願い! 一緒に片付けを手伝ってくれない?」
「マジですか」
「マジ。お礼はたっぷりするから力を貸して!」
「お礼?」
「こんなものはどうかな」
その内容を兼近さんは俺の耳元に囁いた。
それを聞いた俺は真剣な眼差しで確認した。
「それ、本当ですか?」
「勿論。約束は守るよ」
「俺に手伝わせて下さい! 全力でやらせていただきます」
「ありがとう。これでこそリア友だ。冴島くんのようなリア友が居て良かったと思える瞬間だよ」
「普段から思っていないんですか?」
「そんなことないよ。いつでも冴島くんの存在には感謝しているよ。さぁ、さぁ。早速、始めようか」
なんだか兼近さんに乗せられたような気がしたが、困っているというのであれば手を貸さないわけにはいかない。
それにお礼はしっかりしてもらえるのであれば俺としては何でも良かった。
勉強の途中だったが、俺はそのまま隣の兼近さんの部屋に訪れる。
扉を開けた瞬間、人が通れるか通れないかモノが既に押し寄せていた。
「兼近さん。以前、来た時よりまたモノ増えたような気がするのですが」
「え? 気のせいじゃない?」
「そんなこともないと思いますが。大きなゴミ袋ありますか? とりあえず要らないモノを入れていきますから」
「はいよ!」
ゴミの分別を気にせず、目に入ったゴミを片っ端から詰め込んだ。
食品のフィルムや弁当の容器。ペットボトル、空きカン、割り箸など明らかにゴミというものを入れるだけでも一苦労だ。
片付けられない人というよりかなりの面倒くさがりなのだろう。
部屋を見るだけでその人の性格が分かってしまう。
「何か臭うと思ったらこれ、いつのおにぎりですか?」
ペッチャンコになったおにぎりを見つけて俺は賞味期限を確認する。
十日前だ。
「あ、買ったけど食べるのを忘れていてそのままにしていたかも」
「普通、自分で買ったものを忘れますか?」
「いろいろしていたら忘れることだってあるよ」
俺には理解できない。
だが、他人との価値観を否定するのもよくはない。
兼近さんと俺は別の生き物だ。こういうことだってある。
「マヨネーズ。何で床に落ちているんですか。これも捨てますよ?」
「あーそれ使うよ」
「使うってこれ普通冷蔵庫に入っているやつでしょ」
「使うもん。昨日も使ったし」
「それ大丈夫なんですか? お腹とか」
「何ともないから大丈夫」
ゴミ捨てから始まったが、いきなり先が不安になってしまう。
「そういえば聞いていなかったですけど、家族はいつ来るんですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 明日の昼頃だよ」
「は? 明日?」
現在、時刻は十六時を過ぎた頃。つまり、タイムリミットは二十四時間を切っていることになる。
この量を二人で片付けるのは無理な話だと俺は悟った。
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