第18話 長い一日①
土曜日の朝五時三十七分。
まだ日が昇り切っていない時間にコンコンと扉のノックが俺の部屋に鳴り響く。
「冴島くん。起きている?」
その声で俺は目を覚ました。
速水さんだ。当たり前だが、しっかりと顔を整えており、私服ではあるのだが、どこか部屋着のようなラフな格好である。
「やぁ。いらっしゃい」
「うわぁ。寝癖凄いね。今、起きたところ?」
「ま、まぁね。ごめん。少し身支度するから待っていてくれる?」
「別にそのままでいいよ。そんな見た目に気を使う間柄でもないでしょ?」
「いや、せめて顔を洗うのと着替えだけは済ませるから」
五分で全てを終わらせて速水さんを家に上げた。
「お待たせ。どうぞ」
「お邪魔します。兼近さんはまだなんだね」
「あぁ、多分寝ているんじゃないかな?」
昨夜も生配信をしていたようなので今は熟睡しているのだろう。
兼近さんはどちらかと言えば夜派だ。朝から昼過ぎまで寝ていること大体を占めている。
「起こしてみる?」
「いや、起きたらそのうち来ると思うからそのままでいいよ」
「そっか。でも本当に朝早く来たけど、何をしよう。まだ朝の六時だよ?」
「確かに。しかも朝から集まろうって提案した本人が居ないんじゃ困るよね」
「冴島くんは朝派? 夜派?」
「俺は夜かな。夜の方が集中できる」
「私は朝派かな。集中するとしたら朝が効果的なんだよ?」
「え? そうなんだ。夜の方が静かで集中できると思うけど」
「夜って脳が疲れているから勉強するとしたら不向きなんだよね。まぁ、人によるとは思うけど、朝イチなら勉強すると一気に頭に吸収されるんだよ」
「そうなんだ。じゃ、試しにやってみようかな」
「私が朝の勉強方法を教えてあげる。ちなみに私はいつも五時起きだよ」
「五時か。俺は八時前でギリギリまで寝ているかな」
「朝の時間の有効活用をやろうか」
速水さんによる朝の勉強方法を実践することになった。
まずは基本となる日光を浴びること。そして日光に浴びながら軽くラジオ体操。これがとにかく大事だと言う。
「体操が終わればすぐに勉強。とにかく覚える単語を中心に勉強するのがオススメ」
「朝食は食べないの?」
「別に食べてもいいけど、私は食べない。お腹がいっぱいになると眠くなるから。摂取するとしてもコーヒーとかの飲み物くらいかな。それと朝一の勉強は一番吸収しやすいから難しい単語など覚える系を中心にした方が効果的なの」
「な、なるほど。確かに起きた後って頭がスッキリしてなんでも覚えられそうな気がするよ」
「でしょ? 今回は一緒に勉強するからラリー方式の勉強をしようか」
「ラリー方式?」
「ほら、卓球とかでボールを打ち合うでしょ? 問題を出すのがサーブ。その答えを言うのがショットって感じ かな。後は交代しながら繰り返していくことをラリー方式の勉強法」
「そんなものがあるの?」
「あると思うけど、私が勝手に作った。じゃ、試しにやってみようか。先行は私ね。さぁ、構えて」
速水さんは卓球のサーブのポーズを取る。
勿論、手には何も持っていないのでエアーである。
俺はそれっぽく構えた。
「じゃ、行くよ! 日英同盟協約が最初に結成されたのは何年か」
「えっと。1902年」
「正解。はい。次は冴島くんのサーブだよ」
「あぁ。問題! 日清戦争の講和条約を何というか」
「下関条約!」
「正解」
「じゃ、次は私の番! 問題……」
この調子で俺と速水さんはラリー方式の勉強法を続けていた。
スピード感があり、一種のスポーツをしている感覚がより脳に刺激された。
身体を動かすことと勉強をすることは別と考えていたが、シンクロさせることで効果的であることを思い知った。
「さぁ、冴島くん。まだまだ行くよ!」
「あぁ、望むところだ!」
見えない激しい戦いが繰り広げられた。
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