第17話 平穏なひと時

 兼近さんと速水さんが俺の部屋に入り浸るようになってしばらく経過した頃である。

 まるで自分の部屋のように二人は足を伸ばして寛ぐ体制が自然となっていた。


「速水さん。ネイル塗ってあげる」


「え、私は似合わないよ」


「まぁ、そう言わずに」


 部屋中にネイルの匂いが充満することもお構いなしに女の子同士のイチャイチャが目立っていた。

 それになんと言っても足を組んだりする時にスカートの中身が見える。

 下手をしたら捲れていることにも気づかずにいるので目のやり場に困るのだ。

 俺の部屋なのにどこか居づらい雰囲気が日に日に増えている気がする。


「冴島くん。何か飲み物貰えるかな?」


「兼近さん。それはいくらなんでも図々しいのでは?」


 最早当たり前なので図々しさを感じることは少なくなっていた。


「オレンジジュースあるよ。速水さんもいるよね?」


「あ、はい。いただきます」


 ジュースを飲みながらお菓子を摘み、漫画やゲーム。

 俺の部屋は漫喫状態になっている。

 ただ無償に場所を提供するのであれば迷惑な話であるが、俺にもメリットは充分にあるのでそこまで言うことはしない。

 兼近さんは掛かった費用を支払うというし、速水さんはひと月分の家賃がタダ。それに月々の家賃も値下げ交渉してくれるというので金銭面に関しては充分過ぎる利点がある。

 それに……。


「はぁ、ダラダラ出来て幸せ」


「学校以外で勉強する場所ってなんだかんだお金が掛かるし、そういう意味では冴島くんの家って神だね」


 年頃の女の子が二人も無防備に寛ぐ姿を堪能できることは大きな特権ではないだろうか。


「これだけ居心地が良かったら泊まりたくなるね」


「あー。それもいいかも。泊まれば勉強する時間にも幅が利くし」


 泊まり? 

 そう、溜まり場として定着はしているものの泊まりにはまだ発展しなかった。

 だが、向こうから提案するとは思えなかったので少し胸の鼓動が早まった。


「お、俺はどっちでもいいけど」と、強がってみせるが本当は泊まってほしいと下心が芽生えていた。


「あーでも流石に泊まりはやりすぎかな。それだったら兼近さんの家に泊まろうかな。だってお隣さんでしょ?」


「いや。それは辞めておいた方がいいよ。うち、かなり散らかっているし」


「寝る場所があれば平気だよ。そのスペースはあるでしょ?」


「それはどうかな。とにかくうちは絶対にダメだから」


 兼近さんは全力で家に来ることを否定した。

 お世辞にも綺麗な部屋とは言えないので無理もない。


「兼近さんの部屋が気になってきた」


「絶対にダメ。もし、入ったらリア友辞めるから!」


「え? そこまで?」


「そこまで」


「逆に気になるけど、リア友を辞められたら困るから絶対に見ないようにするね」


 速水さんは兼近さんの謎が一つ増えたがそれ以上、追求すると後が怖いと踏み止まった。

 兼近さんがVtuberであると知ったらどのような反応をするだろうか。

 真面目な速水さんからすれば軽蔑するような業種であることは間違いない。


「お泊まり会って私、憧れがあるんだけどする相手が居ないのと親が厳しいから出来ないんだよね」


「へー。勉強会って適当に嘘をつけばいいのに」


「無理、無理。嘘がバレたら後が怖い」


「じゃ、早朝からやる?」


「早朝?」


「朝の五時くらいなら泊まりに入らないから夜まで遊ぶとしたら半日以上は過ごせることになるでしょ?」


「あ、それ名案かも。一日の二十四時間を有効活用すれば多くの時間を遊びに費やせるもんね」


「なら決まり。次の土曜日の早朝からここに集まろうか」


 兼近さんは勝手に提案して速水さんはそれに乗っかった。


「えっと、俺の許可は?」


「勿論、いいよね? 冴島くん」


「ああ、はい……」


「なら決まり!」


 最長時間で俺の部屋に入り浸る計画が実行されようとしていた。


 

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