第6話 Vtuberの実態
「俺が兼近さんのリア友?」
「そう。やっぱり実際に会える人が必要かなって思ってさ」
「だとしてもどうして俺なんだよ。クラスの誰かと友だちになればいいだろ」
「うん。それも考えたんだけど、どうも信用できないんだよね。私がVtuberであることを秘密にできて定期的に会える人の条件ってなかなかいないだよね。そこで秘密を知ってなおかつ隣人の冴島くんが候補として有力だと思った訳。友だちがいないなら秘密を言われる心配もないし、まさに好条件。どうかな?」
「どうかなって」
俺が兼近さんのリア友。
考えてみればそれはかなりおいしい展開だが、いいのか。裏があるのではないかと不安が過ぎる。
「それってつまり俺を兼近さんのリア友にすることで秘密をバラさないように留めておくってこと? 言ってみれば監視でしょ」
「おぉ、冴島くん。見た目通り頭が良さそうだね。そう、私の秘密を守ってもらうために監視するって意味も込めている。大正解!」
「何度も言うが、俺には喋る相手はいない」
「相手がいなくてもネットでも盗み聞きでも情報が漏れることはいくらでもある。そう言う意味でも絶対に秘密が漏れないとは言い切れない」
「確かにそれもそうかもしれないけど、そんなに知られたくないこと? 俺には理解できないんだが」
「まぁ、私ってちょっとした有名人だから念には念を入れないとね。いいじゃん。こんな可愛い美少女がリア友になりたいって言っているんだから断る義理もないでしょ」
「自分でそれを言うか。やっぱり兼近さんって変わっている」
「そう。ありがとう」
「え? 俺、褒めた?」
兼近さんは天然なのか、やはり変わっていた。
「あ、そうだ。音漏れが出ないようにヘッドホン買ったんだけど、この部屋に聞こえないか試してもいいかな?」
「いいけど」
「ちょっと待ってね。音を出してみるから」
兼近さんは自室に戻って音を出した。
間の壁に耳を当てるが、無音だった。
「どう? 聞こえる?」
「いや、全然」
「良かった。これで騒音トラブルも解消されたね」
用事が終わり、帰るかと思ったが兼近さんは居座っていた。
「あの、帰らないの?」
「うん。そのうち帰るよ」
娯楽が何もない俺の部屋に居ても楽しいことなんてない。
仮眠を取ろうとしていたが、兼近さんがいるのでは寝辛い。
「ねぇ。気にならない?」
「何が?」
「私、Vtuberだって言っているじゃん。どれくらいの規模なのかって」
「いや、別に」
「無関心過ぎ! 私、チャンネル登録数十万人だよ。凄くない?」
「凄い基準が分からない」
「これだからガリ勉は! まぁ、ある意味、無関心の方が私としても助かるんだけどね」
「ちなみにチャンネル名は?」
「アズアズチャンネル」
亜津葉だからアズアズチャンネルか。付け方は単調だな。
俺は早速、ネットで調べた。
主にゲーム配信や漫画・アニメをテーマにした雑談が動画のコンテンツになっていた。そして気になるチャンネル登録者数は9万4500人と表示されている。
「十万人って嘘じゃん」
「四捨五入したら十万人でしょ! いいもん。後、数ヶ月もすれば十万人達成できるから同じことよ」
四捨五入したら九万人になるが、十万人と言い張りたいのだろう。
それにしてもそれなりに活動しているようだ。
ここ最近、毎日配信が続いている。十万人を達成させようと努力しているのだ。
「これでいくら稼いでいる訳?」
「それは企業秘密といいたいところだけど、ヒントをあげる。新卒のサラリーマンから中堅サラリーマンの月給の間くらいとだけ教えてあげる」
企業によるが、平均的で新卒サラリーマンの月給というのは高卒で十八万円前後、大卒で二十二万円前後。
中堅はよく分からんが、少なくとも二十万円以上は収入があるという訳だ。
女子高生で稼げる額としては高収入である。
えっちなアルバイトでそれくらい稼げる人はいるが、それらを抜きにしたらかなり有能だ。
「どう? 少しは私の凄さに理解できたかな? 冴島くん」
「凄いことは分かったよ。俺から言わせてもらえばいつまで続くかな? って言うのが正直なところだよ」
「ふーん。相変わらず硬い考え方をするんだね」
兼近さんの仕事に関しての取り組みが知れた訳だが、俺は認めないような理解し難いところは捨てきれなかった。
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