第5話 リア友
学校が終われば俺の中ではルーティンというものがある。
帰宅前にスーパーの特売品を買い込み、家に帰り、食材の仕込みをする。
その後、数時間の仮眠だ。
夜起きて集中して勉強する為に必要な準備作業がこの一連の流れになる。
さて、帰宅した俺は早々に食材の仕込みをしようとした直後である。
コンコン! と扉をノックする音が響いた。
「誰だ?」
この家を訪問してくるような知人はいない。
宅配便か何かだろう。セールスだったら嫌だな。
「はい。どちら様……」
「やぁ! 来ちゃった」
扉を開けると兼近さんが立っていた。
制服から部屋着に着替えたのか、大きめの服を着ている。
「兼近さん。今日、学校どうしたの? 途中から姿が見えなくなったけど」
「ダルいから帰った」
そんな理由で帰ってしまう兼近さんはある意味羨ましい。俺なら絶対に出来ない。というより、考えられないというのが正直なところ。
「えっと、それはそうと何か用ですか」
「何、よそよそしい感じ。仮にも同じクラスメイトで隣人でしょ」
「まぁ、何となく。それで何?」
「ちょっと上がっていい?」
「え? あぁ……」
「お邪魔します」
俺が答えるよりも先に兼近さんは部屋の中に上がり込んでしまう。
「へぇ、何もない。必要最低限のものだけって感じ。私の部屋より広くない?」
「部屋の間取りは一緒だと思うけど。というか兼近さんの部屋には余計なものが……」
「あーはい、はい。それ以上言うとぶっ飛ばすよ?」
え? 怖っ! 兼近さんってそう言うタイプの方でした?
何がスイッチになるのか分からないので発言には気を付けた方が良さそうだ。
「それにしても漫画やゲーム機とかないの?」
「娯楽品は基本ない。勉強の邪魔になるものは基本的に置かないんだ」
「ふーん。徹底しているね。そんなに勉強したいんだ」
「それより何しにしたの?」
「今日は私のこと、誰にも言っていなかったね」
「何でそんな事がわかるの?」
「見ていたら分かるよ。改めて見ると冴島くんって友だちいないでしょ? ずっと勉強しているし、喋りかけて来る人もいない」
「わ、悪いかよ」
「あ、気を悪くした? そんなつもりで言ったじゃなくてどうなのかなって思ってさ」
「どうなのかなって?」
「一人で寂しくない?」
「別に。友だちとか関われば感情が入るから。結局、友だちって俺にとって邪魔というか必要ないと言うかそんな感じさ。そういう兼近さんこそずっと一人じゃないか」
「私はただ一緒にいるだけの友だちはいらないからいいの。ネットでたくさんいるし全然寂しくない」
「顔が分からない友だちこそ虚しいだけだよ」
「私はそうとは思わないよ。同じ夢を語れる友だちって素晴らしいと思うし」
「そうか。俺には理解し難いものだな」
「でもこれでハッキリした。冴島くんは何があっても私の秘密を公言しない。そうでしょ?」
「言っただろ。喋るような人がそもそもいないって」
「なら都合がいい。うん、決めたよ」
「へ? 何を?」
「ネットの友だちも捨て難いけど、実はリア友も必要だと思っていたところなの」
「リア友?」
「リアルな友だち。冴島くん。私とリア友になろうか。今日はそれを言いに来たんだ」
そう言って兼近さんはクスリと笑った。
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