第4話 遅刻常習犯

 翌朝、登校すると兼近さんはいなかった。

 遅刻か無断欠勤は確実だろう。

 昨日は不思議な出会いをした訳だが、学校では特に関わりがない人に過ぎなかった。

 二限目の授業が始まってしばらくした時である。


「おはよう。みんな」


 当然のように兼近さんは前の扉から教室に入ってくる。

 授業中であるため、普通は後ろの扉から申し訳なさそうに忍び足で入るべきだが、兼近さんはそれとは真逆で堂々としていた。

 俺が逆の立場であれば休み時間に時間をズラしたり、そっと身を屈めながら自分の席に着くと思う。


「コラ! 兼近。もう授業始まっているぞ」


「ごめんなさい。先生。気を付けます」


 教師を軽くあしらって兼近さんは自席に座る。

 遅刻とは注目を集める行為になるが、兼近さんは慣れているのか、人の視線を気にしない様子だった。

Vtuberをしているくらいだ。人の視線は慣れているのだろう。

 遅刻してきて早々、教科書を開けるのかと思いきや、兼近さんは大きな欠伸をして机に突っ伏して頭を伏せた。

 え? 寝るの?

 俺は授業よりも兼近さんの行動が気になっていた。


「コラ。兼近。寝るな。先生の授業はそんなに眠たいか!」


「眠たいです」


 顔を上げないまま兼近さんは答えた。

 そのやりとりに教室中に笑いを生む。

 起こすのを諦めた教師はそれ以上、兼近さんを起こすことはなかった。

 俺からしたら考えられない。むしろ出来ない。

 それを平気でやってのける兼近さんにむしろ感心するほどだった。

 結局、その日の兼近さんは授業を真面目に聞くことはなく寝たり、ぼーっとすることを繰り返していた。

 少し声を掛けようと思ったが、とても掛けられる雰囲気ではなかった。

 学校での兼近さんはいつもこんな感じ。

 教師からしたら問題児。同じクラスの男子からは憧れの存在。女子に関しては近寄り難い存在として見られている。

 だから友だちと言える人は俺の知る限りいないのではないだろうか。


「はぁ。お腹空いたな。ねぇ、何かお菓子持ってない?」


「いや、無いです」


 挙げ句の果てに兼近さんは隣の生徒からお菓子をたかろうとする始末だ。

 遠くから見たら面白いのだが、実際にやられると正直ウザいというのが現状だろうか。

 そんな兼近さんはクラスで浮いた存在である。教室内では居心地が悪いのか、よく抜け出すこともしばしば。


「兼近さんって何の為に学校に来ているんだろう」


「授業聞かないなら帰れって話」


「男子ってああいうのがいいのかしら」


「顔が良くてスタイルがよければそれでいいんじゃない?」


「この学校にギャルっていうのが珍しいだけかもしれないけど」


「ははは。それは言えている!」


 兼近さんがいなくなったことを他所にクラスの女子たちから悪口が耳に入る。

 事情を知っている俺としては裏で頑張っていることを教えてやりたいが、それは本人から口止めされているので言えない。

 歯痒い気持ちで俺は勉強に集中するフリをしていた。

 とは言え、悪口を言われる程度で物を隠されたり、攻撃的な虐めをされているわけでは無い。

 ギャル特有の強い口調や態度で太刀打ちできないことを本人たちは知っているからだ。直接言えないところは卑怯だが、俺からどうのこうの言える立場でもなかった。

 その日、兼近さんは午前の授業の後、教室から姿を消して戻って来ることはなかった。いつの間にか鞄も消えていたから早退したのだろう。


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