第20話 武田五一とウィリアム・モリスについて

このエッセイは、私が投稿している小説に関するものです。

投稿している小説は、正式なタイトルを「私が投稿している小説「京都市左京区下鴨女子寮へようこそ! 親が毒でも彼氏がクソでも仲間がいれば大丈夫!」といいます。

長いので、以下「(略)下鴨女子寮へようこそ!」としますね。

小説は→https://kakuyomu.jp/works/16816927860159349467


拙作「(略)下鴨女子寮へようこそ」も終盤です。


前半からちらちら登場していた武田氏。

美希が初めて自転車を購入した時に「他人の時間を奪うな」と説教した「怖い人」であり、一方で、美希が清水さんに祇園祭宵山で置いてけぼりにされたときには、パンツ一丁になってまで助けようとしてくれた人です。

伏線というか、終盤での重要な登場人物となるので、前半にも登場して貰ってたんですよ~。


その武田氏の専攻が作中で明らかになりました。

工学部の建築学科です。

私は登場人物の名前を、その人の大学での専攻分野に絡めて名付けるようにしていますが、武田という姓も有名な建築家から来ています。

(これまでの登場人物については、このエッセイの第4話の追記部分でご説明しております。https://kakuyomu.jp/works/16817139557002643221/episodes/16817139558163905240


武田吾一という建築家です。

京都大学がニュースか何かで取り上げられる際に、よく「時計台」の写真が使われますが、あの時計台を設計した人です。

(京都大学「京都大学時計台の沿革」

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/facilities/campus/clocktower/about/enkaku)。


以前、日本の西洋建築史の第一人者の辰野金吾をご紹介しました。

辰野金吾は、現在の東大工学部の全身にあたる学校の第一期生で、そこの教授になりましたが、武田吾一は京都帝国大学の初代建築学科教授です。


拙作「(略)下鴨女子寮へようこそ」の第23話で、やはり武田吾一設計の「京都府立図書館」がちらっと登場する予定ですので覚えて頂ければ幸いです。


今回、武田氏はウィリアム・モリスのグッズを見たくて、イノブンの前で挙動不審な行動をとっていたのでした。


このウィリアム・モリス。

彼自身をご存知なくても、彼のデザインしたテキスタイルは皆さん一度は何かでご覧になっていると思います。

リバティプリントなどにもなっていますしね。


モリスのデザインによる「イチゴ泥棒(Strawberry Thief)」は実在する有名なものです。

本文中の、「イチゴ泥棒」について美希と武田氏が会話している場面を引用しておきます。


”装飾的に描かれた植物の図を背景に鳥が左右対称に二羽並び、その傍に確かに赤いイチゴが描かれている。そんな布地でできたカバンやクッションカバーが入り口近くに並んでいるのだ。


「あの布は『イチゴ泥棒』という名前の有名な図柄だ」


「ああ、鳥がイチゴをつついちゃう『泥棒』……。それであの鳥とイチゴの図柄は

『イチゴ泥棒』という名前がついている、という訳ですね」”


ウィリアム・モリスは、産業革命後、それまで職人の手作業で作らていた工芸品が工場で大量生産されるようになり、芸術的な価値を失ってしまうことを憂いた人でした。

生活の中に芸術を取り戻すために、「モリス商会」を設立し、ステンドグラスや家具、布などを売り出します。


ちょっと意外かもしれませんが。

機械による大量生産に取って代わられたことで、美しさを生み出す労働の喜びもまた奪われたと感じたモリスは、この文脈から社会主義者となります。


また、彼の芸術関心は文芸にも向けられ、いくつか作品を残しているようです。

多方面で活躍した人なんですね。


21世紀の日本でも、彼の作品は愛されています。

たしか2021年の秋だったと思うのですが、イノブンでモリスデザインの雑貨の特集がありました。


その様子を拙作「(略)下鴨女子寮へようこそ」に描写しています。

入口付近に「イチゴ泥棒」をはじめとする、モリスのデザインの、カバンやクッションカバーやポーチなどなどが並んでいました。

4階の文具売り場でも壁紙が売られていたのも、本文と同じです(一本380円だったというお値段もw)


私も(私の金銭感覚からすると奮発して!)「イチゴ泥棒」柄のトートバックを買いました。愛用しています!

近況ノートに写真を掲載しておきますね。→https://kakuyomu.jp/users/washusatomi/news/16817330648771544980


京都の女の子御用達の「イノブン」については前回書きました。


若い女の子ばかりかと思って、中年のオバはんの私が中に入るのを躊躇しておりましたら。

店内には、グレイヘアの”お姉さま方”がたくさんいらっしゃって、私も堂々と入ることが出来ました。

いくつになっても心は乙女。可愛い雑貨を見ていたいですよね!


一方、男性にとっては(もちろん個人差はあるかと思いますが)かなり入りづらい雰囲気ではあるかと思います。

特に武田氏には、見えない結界が張られていると感じられるようですねw


男性の建築家志望者が女性の雑貨屋に馴染む理由がどれほど重いのか分かりませんが……。

拙作「(略)下鴨女子寮へようこそ」を書くにあたって、参考に読んでいた本の中に、建築家志望の若い人に向けて、建築士や大学の建築学科で教鞭をとっている様々な人たちがアドバイスする内容の本を読みました。

タイトルは「ようこそ建築学科へ 建築的・学生生活のススメ」といいます。

その中に、建築家を目指す学生さんたちに「恋やデートも大事だよ!」と呼びかけるページもありました。

(学芸出版社 ISBN 978-4-7615-1336-8 発行日 2014/04/01)


どの分野でも充実した青春を送るのは大切ですが、建築は芸術でもありますから、なるたけ多様な人生経験があったほうがいいのでしょうね。


また、万城目学さんと門井慶喜さんの対談本にも、有名な建築家(渡邊節)が後輩に向かって「女のひとりやふたりいないと」と発破をかけたというエピソードが出てきます。


”「今回、綿業会館を見て、渡邊節って人は魅力的だなあと改めて感じました。(略)。ハンサムで、背が高く、ダンディで、お金もあって仕事も出来る。女性にもてて、食通であり、長命でもありました。渡邊節ってそういう『持ってる』人なんですよ。待合から高校に通っていたという伝説もあれば、長じてからも後輩を捕まえて『女のひとりやふたりいないと、いい建築家になれないぞ」と助言したという話もある”

(門井慶喜 万城目学『ぼくらの近代建築デラックス!』203頁。2012年11月 文藝春秋 / 2015年5月 文春文庫)


……となると。

女性的な物が苦手で、「彼女など洒落たものがいたためしがない」武田氏も焦るワケです。


そんな武田氏の前に現れたのが美希。

武田氏は、このイノブンに引き続き、美希に「偽装彼女」を依頼しますが……。


この二人が京都の街でどんな時間を過ごすのか。

今後はコミカルに展開していきますので、最後までお楽しみいただけましたら幸いです!

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