第6話 追加の計画

 商店街を出た後、柾達は生き物以外の風景写真も撮りつつ、次の目的地へ向かっていた。


 鹿嶋は引っ越してきたばかりで、まだ土地の理解が追いついていないらしく、『このからは天井君に任せても良いですか?』と言って柾の後ろを着いてきている。


「えっと次は…」


「『田んぼ道を回る』だな?」


「はい、それですね!これは私からの案です。だってほら、ここみたいな田舎の田んぼっていろんな生き物いるイメージありません?」


「なるほど、つまりそこなら必然的にいい写真を撮れる可能性も高くなるだろって考えだな」


 鹿嶋は、はい!と元気よく返事をする。


 この町も賑わっているのは駅前だけで、少し離れれば機械音一つしない程の田舎に風変わりする。

 ここで育った身としてはものすごく居心地が良い所だが、果たして鹿嶋は退屈していないだろうか。


 柾はそんなことを考えていると、突然頭にある考えが浮かんだ。


 今向かっている目的地から5分もかからない程の距離には柾オススメの池ある。

 たくさんの木々に囲まれ、ひっそりとした空間の中に広がるそれはとても幻想的で、写真を撮るにはもってこいのスポットだった。


「なあ鹿嶋。田んぼ道以外にもちょっと行きたい所思いついたんだけど、行ってもいいかな?」


「天井君のおすすめですか⁉︎是非行ってみたいです‼︎」


 そう鹿嶋は食い気味に返事をする。

 しかしその瞬間、同時に柾に1つの懸念が生まれる。


(…念のため確認しとくか)


「一応聞くけどさ」


「なんでもどうぞ」


「鹿嶋、虫とか大丈夫か?」


「……。でもまあ、写真に集中すれば気にならないと思います」


「よし分かった、苦手なんだな」


「そんな事言ってません‼︎……得意とは言えませんが」


 うーん、やっぱそうですよね〜。だってカバンから虫除けスプレー2本見えちゃってますもの。それも強力なやつ。


「でも大丈夫です。いざとなれば秘策があるので‼︎」


「ちなみに鹿嶋が持ってるそのスプレー、蚊とかヒルとか以外あんまり効果ないぞ」


「え、えぇ⁉︎い、い、いつからお気付きで…⁉︎」


 一気に顔を赤くして、カバンを後ろに隠す鹿嶋。


「商店街を出たあたりから気付いてた。最早そんな大きなやつカバンに入れてて、気付かない方がおかしいって」


「うぅ…」


 鹿嶋は少し涙目になりながら恥ずかしそうな様子を見せる。

 その破壊力抜群な反応を柾はあくまで平静を装って見守っていた。




(………おい待て、何このシチュエーション)


 冷静に考えると凄いことになっている。

 

 この世の誰もが憧れるであろう、ラブコメのような胸キュンシーンを目の前の美少女相手に初体験しているのだ。



 意識し出した瞬間、鹿嶋とは別の恥ずかしさが柾を苦しめ始める。

 耐えられず目を逸らしたが、今度は鹿嶋がその態度を見て変な勘違いをし出した。


「言った後に気を遣わないでください…」


「ごめん鹿嶋、今の俺そんなの遣う余裕ないかも」


 そう即答すると、それ以上何もいえずお互い黙り込んでしまった。

 


 少ししてから、このあまりにも気まずい空気の中、先に動いたのは鹿嶋だった。


「とにかく!私は大丈夫です。…それに、何かあっても天井君がなんとかしてくれるって信じてますから」


 余韻がまだ残る柾は、その一言で更に特大ダメージを負う羽目になった。






 その後、池の事を説明をして、なんだかんだで鹿嶋からの了承を得た。

 そして結局上手く会話もできないうちに、気付けば目的地周辺に着いていた。



「池に行く前に、20分くらいここで自由行動しませんか?今良い構成が沢山浮かんでるんです」


 到着するや否や、そう鹿嶋が提案した。

 

「分かった、何かあったらまた呼ぶわ」


 鹿嶋は、はい!と元気に応え、その後すぐに写真を撮りに行ってしまった。


「まあ俺もちょっと落ち着きたいしちょうどいいか」


 ここでも試しにカメラを構え、目の前の木に留まるトンボを写してみた。が、やはり撮ることはできなかった。


 柾はすぐに諦め、今度は木陰に座りながら鹿嶋を見守ることにする。


 楽しそうに写真を撮るその姿はひたすらに輝いていて……なんだか今の自分とは遠く離れた場所にいるように感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

思い出の園 @utaya_8710

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ