第4話 エレベーター
薄くついた皺はもう伸びない。
小嶋の顔も、人生も、そしてこのコートも。
「行くぞ。」
「行くぞって…、まさか、また西山さんの家に行くつもりですか?行っても何も話してくれませんって。この前の様子覚えてますよね?全然相手にしてくれる感じじゃなかったじゃないですか。」
坂下が話している間に小嶋は第四係を出ていった。坂下は小走りで追いかけた。
小嶋は5年前から三課の中で1番立場が下の第四係で働いている。係は第五係まであるが、新設の第五は第四とは正反対でデータによる調査ができるエリートの集まりだ。第四も第五も他の係とは違い専用の部屋を持っているが、あっちは特殊な設備のある部屋で、こっちは数年前まで埃まみれだった昭和レトロな設備のある部屋だ。
小嶋と坂下以外のメンバーはたった2人。係長と美智子さんだ。美智子さんは第四のサポートをしてくれている人。と言えば聞こえはいいが、本当は自分から仕事をやらず、第四の足の2人に頼まれてやっと仕事をしてくれるような人だ。基本的には折り紙を折っているか、ペーパークラフトに勤しんでいる。
第四はのんびりおじいちゃん服部警部補が係長をしている。彼はのんびりした性格ではあるが、何故こんな辺境の地にいるのかは第四の誰も知らない。服部は前から小嶋を気に入っており、小嶋の勝手な行動を全て許している。
「おお、エンジンかかってきたかな?」
いつも通りポリポリとあられを食べながら二人を見送った服部が言った。
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「先輩、ちょっと待ってくださいよ。小嶋先輩!」
「行く気になったか?」
「なってませんけど、先輩が行くって言うならついて行きますよ。あと、この時期にコートは要らないと思いますけど。」
「お前も持っていった方がいいぞ。」
「要りませんよ。」
エレベーターの前でようやく小嶋は止まった。小嶋の歩きは普通の人は小走りしないと着いていけないくらい速い。
小嶋は膝に手をついて息を整えた。
数秒経って顔を上げると、目の前には誰もいなかった。
「あれ?」
ちょうどその時「ピンコーン」という年季を感じさせる音が鳴った。同時に小嶋の耳は遠くで階段を駆ける音を感知した。
「まさか。」
坂下は大きなため息を閉まるエレベーターに落とした。
「エレベーターくらい待ちましょうよ!!」
小嶋は少しせっかちなところがある。
愛犬家 サクヤカンテツ @atokku
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