エピローグ
エピローグ
アキトとケンシロウが
今日は龍山荘の休館日。
龍山荘の建物も広い庭も全てアキト一家の自由に使える日だ。
アキトとケンシロウの長男ダイキが甲高い歓声を上げながら元気に外の庭を走り回って遊んでいた。
子どもの体力は有り余っており、アキトはへとへとになりながらダイキを追いかけて庭を一緒に走り回っている。
「パパ頑張れー!」
呑気に木陰のカウチに座って、ケンシロウは生後六か月の次男コウキをのんびりとあやしている。
「後五分したらケンシロウは俺と交代な」
アキトが汗をダラダラ垂らしながらケンシロウにそう言うと、ケンシロウはふんっと鼻で笑った。
「やーだよっ。オレは今、コウキの世話で忙しいの」
「この野郎。コウキのおむつの世話をしてるのはいつも俺の癖に、都合のいい時だけ……」
アキトが悔しがって地団駄を踏んでいると、いきなり水がバシャッと顔にかかった。
「キャハハハハ! パパ、びっしょびしょ!」
ダイキが悪戯っぽく笑いながら庭の手入れに使用している水撒き用のホースを持ってアキトに向けて水を放っている。
「あ、ちょっと、ダイキやめろって!」
アキトはたまらず逃俺げ出した。
そんなアキトの様子が可笑しいのか、ダイキはキャッキャとはしゃぎ声を上げながらアキトを追い回す。
「ダイキやっちゃえやっちゃえ!」
ケンシロウも大笑いしながらダイキを煽る。
あいつ、覚えとけよ。
アキトはキッとケンシロウを睨みながらも、ホースの水から逃げ回った。
「あらあら、元気そうね。ダイちゃん、おやつが出来たわよ。今日はフルーツゼリーを作ったから、早く手を洗っていらっしゃい」
そう龍山荘の門の外から声をかけて来たのはサチだ。
サチはダイキが生まれてから少し後にサダオと正式に離婚届けを提出し、今は龍山荘の離れの一軒家でアケミと二人で暮らしている。
今ではアケミも龍山荘の女将を引退し、アキトは若旦那として龍山荘を切り盛りしているのだった。
引退してもこうしてサチと二人で子どもの面倒を見てくれるので、アキトもケンシロウも大助かりしているのだ。
「わーい! おやつだぁ!」
ダイキはホースを放り出してサチの方に走って行った。
「ったくもう、世話の焼けるやつだ」
アキトはぶつぶつ文句を言いながら、ホースを片付けた。
「アキトとケン君もゼリーはいかが? マサヒロ君も来ているし」
「兄ちゃんが? うん。行く行く!」
ケンシロウはサチの誘いにぴょんと立ち上がって離れに向かって急いだ。食い意地だけは一人前なケンシロウは、今も昔も変わらない。
マサヒロは去年から長野の事業所へ移動となり、今では
サチやアケミともすっかり仲良くなり、今では家族ぐるみの付き合いをしているのだ。
ケンシロウと同居するという夢が叶った訳ではないが、それに近い形で暮らせていることにマサヒロ自身満足しているようだった。
アキトがすっかりずぶ濡れになったシャツを着替えて離れに顔を出すと、ケンシロウが口を尖らせて文句を言った。
「アキト、遅い!」
「パパおそーい!」
ケンシロウに合わせたように、ダイキが生意気な口をきく。
「はいはい。すみませんでした」
アキトはそう言いながら、皆と一緒に食卓につく。
テーブルの上には、真っ赤なサクランボの入った淡い赤色の透明なゼリーがぷるんと皿の上に載っている。
甘い香りが部屋を包み込み、思わずよだれが垂れて来そうだ。
「いただきまーす!」
皆で声を合わせて合唱し、ゼリーを口いっぱいに頬張る。
「うめえ!」
「あまーい!」
ケンシロウとダイキは同じレベルの感想を口にして、同じレベルで喜んでいる。
ケンシロウとダイキとコウキ。三人の「子ども」を抱える生活は忙しくて大変だが、愛らしい姿に囲まれているといつの間にか疲れも吹き飛んでしまう。
アキトはゼリーの甘味を口いっぱいに感じながら、甘くて可愛いケンシロウをそっと抱き寄せた。
「もう、アキトったらどさくさに紛れて」
ケンシロウは顔を赤らめて文句を言ったが、すぐにアキトの肩に頭を預けた。すると、何やらケンシロウの身体からフルーティーな香りが漂って来た。見ると、ケンシロウの顔はほんのりピンク色に染まっており、目も心なしか潤んで見える。
「なんか、今日はケンシロウから甘い香りがして来るな」
アキトはケンシロウの身体の香りをくんくん嗅ぎながら言った。
「ゼリーの匂いだよ」
ケンシロウは恥ずかしそうにそう言ったが、これは明らかにゼリーの香りではない。ケンシロウ自身から漂って来る、アキトにだけわかる愛の香りだ。
「今夜、子どもたちはお袋たちに預けよう」
アキトの囁きにケンシロウの顔がゼリーに入っているサクランボのようにぽっと赤く染まるのだった。
―完―
運命の絆はディストピアをも超えてゆく ~夜の街で奇跡の出会いを果たしたαとΩの物語~ ひろたけさん @hirotakesan
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