19-4 二人の愛の結晶
午後八時二十一分。
ケンシロウの病室に一際大きな赤ん坊の泣き声が響き渡った。
へその緒をプチンとハサミで切り落とし、大きなバスタオルでくるまれたアキトとケンシロウの愛の結晶は、そっと二人の元に手渡された。
「男の子です」
そう看護師がその際、そっとアキトとケンシロウに耳打ちをした。
真っ赤な顔をして、まだ目も開いていない小さな命は、ケンシロウの差し出した指を力強くギュッと握った。
ケンシロウの目からとめどなく涙が流れ落ちる。
「可愛い……」
アキトも自分の息子の出産に立ち会った感動で身体が震えたが、生まれたての赤ん坊の姿を見ていてつい本音が漏れた。
「何だかサルみたいな見た目だな」
ケンシロウがすかさずジロリとアキトを睨み付ける。
「サルは余計だ。バカアキト」
父親になって早々、ケンシロウに叱られたアキトはすっかり小さくなってしまった。
「今はこんなにしわしわでも、これからどんどん可愛くなっていくから大丈夫よ」
看護師がニコニコしてアキトをフォローする。
アキトはもう一度、自分たちの生まれたての子どもを見た。
これがケンシロウとの間に生まれた子どもだ。今はサルみたいな見た目だが、じっと見ていると、何とも愛おしいと思う感覚が高まって来る。
アキトはそっとその小さな掌に指を乗せてみた。
小さくて温かいその手は、確実にアキトの指をしっかりと握り締め、新しい命が誕生した事実をアキトに実感させるのだった。
その夜、一日中苦しんだ陣痛による疲れで、ケンシロウは早々に眠ってしまった。
アキトはケンシロウが無事に出産を終えたことをアケミに連絡した。
アケミはすぐにでも病院に飛んで行きたいと言ったが、龍山荘に宿泊客がいる限り、留守にも出来ない。
明日の朝、宿泊客が全員チェックアウトを済ませた所で病院に駆けつける約束をして、電話を切った。
アキトはそのまま病院に一泊することにし、ケンシロウを起こさないようにそっと病室に戻った。
「アキト」
と不意に声をかけられ、アキトはケンシロウのベッドサイドに駆け寄った。
「何だよ。起きてたのか」
「ううん。ちょっと前に目が覚めたんだ」
「大丈夫か? 今日は一日大変だったし疲れただろ? まだ夜は長いんだ。早く寝ろ」
アキトはそっとケンシロウのはだけた布団を掛け直してやった。
「ありがとう、アキト」
ケンシロウはそう言って静かに目を閉じた。だが、どうしてもすぐには眠れないようで、アキトの方に寝がえりを打ってしきりに話しかけて来た。
「アキト、ねえ、アキトったら」
「何だよ?」
「オレたちこれで親になったんだよな」
「ああ、そうだよ。いまだにちょっと実感ないけど」
「オレもだ……。でも、よかった。オレ、ちゃんとアキトの子ども生むことが出来たよ」
「俺とケンシロウの子な。俺だけのものじゃないぞ?」
「うん。わかってる。オレとアキトが愛し合って出来た大切な子どもだよ」
「ああ」
「これからもオレのこと愛してくれる?」
「もちろん。俺は何があってもお前と今日生まれた子を守り続けていくから安心しろ」
「アキト、大好き」
「俺もケンシロウが大好きだ」
二人は病室の中でそっと唇を重ね、深く深くキスを交わしたのだった。
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