13-2 アキトに明かせないアケミの秘密

 アケミは自分がΩであること、かつて運命の番となったαがいたが、今は一緒にはいないことを明かした。

 運命の番を失った彼女は、長年の薬の服用で身体へのダメージは着実に蓄積しており、そのためもあって龍山荘の女将からの引退を考えているのだという。

 更にアケミにはその運命の番との間に設けた子どもがいるようだった。

 ただ、その子どもについてアケミははっきりしたことを語らなかった。語るのを拒んでいたというのが正しいかもしれない。

 アケミにはどうしてもアキトとケンシロウに、特にアキトに対して隠しておきたい秘密があるのは確実だった。


 ケンシロウの考えていたある疑念が一層膨らんでいく。

 だが、その疑念を今アキトの前で話す訳にはいかないと思った。

 アケミにはアキトにその秘密を隠し通さなければならない事情があるのだろう。それをケンシロウが推測し、アキトの前で騒ぎ立てることは賢明ではない。


 アキトはアキトで、アケミの秘密が気になって仕方がないようだった。

 ただ一方で、彼はアケミが語りたがらないその秘密を訊き出すことに罪悪感を抱いていた。

「無理矢理アケミさんの過去を訊き出したの悪かったかな」

 風呂に入りながら、アキトはポツリと呟いた。ケンシロウも同意した。

「そうだね。でも、オレも気になるんだよな、アケミさんのこと。何かあの人は大事なことを隠している気がする」

「大事なことか……。俺もそんな気はしてる。でも、それが何なのかがわからないし、下手に触れたらいけない気もするんだ」

「下手に触れたらいけない、か。アキトはどうしてそう思うんだ?」

「どうしてって言われても……。何となくそう思ったとしか……」

「何となく、ね……」

 煮え切らないケンシロウをアキトが問い詰めた。

「ケンシロウは何か思い当たる節でもあるのか?」

「いや、別に。何でもない」

 ケンシロウはアキトにそれ以上の詮索を拒んだ。


 それよりも、一つ確認しなければならないことがあった。

 アキトと彼の東京に住む両親とのことだ。

「そういえば、アケミさん、ちゃんとアキトの両親に連絡を取った方がいいって言っていたけど、どうするつもり?」

 ケンシロウが尋ねるとアキトの表情が曇った。

「俺はあの人たちとは親子の縁を切ったんだ。俺から連絡することはないさ」

 

 アキトはすっかり両親に愛想を尽かして東京を出て田舎暮らしを始めたのだ。彼から連絡を取るつもりなどないというのは当たり前のことだろう。

 だが、ケンシロウはそんなアキトの事情と合わせて、アケミのためにも今はアキトが両親と連絡を取るべきではないと思っていた。

 アケミの抱えるアキトへの複雑な想いをケンシロウは垣間見ていた。

 不用意にアキトが彼の両親とやり取りをすれば、アケミが深く傷付く結果になる気がしていた。


「そうだね。暫くは連絡取らない方がいいと思う」

「いずれは連絡取った方がいいってことか?」

「いや、別に取りたくなきゃ取らなきゃいい。でも、今はちょっとやめておいた方がいいって思っただけ」

 アキトの追及を交わし、ケンシロウは風呂を出た。


 アキトのいない間に、まずは自分がアケミに事の真実を確認してみよう。

 ケンシロウはそう決めた。

 アキト本人でないが、彼と一番近しいケンシロウであれば、アケミはその秘密を明かすのではないかという確信めいたものがケンシロウにはあったのだった。

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