6-8 アキト出生の秘密
サダオと血が繋がっていない?
アキトは一瞬、サダオが何を言っているのかわからなかった。
「やはり、Ωの血が半分入っているだけある。完全にこれは失敗作だったな、サチ。結局、お前が選んだのが適当なΩの女だったのが全ての過ちの始まりだったんだ」
サダオがサチに冷たい視線を放った。サチが激しく泣きじゃくり始めた。
サダオはアキトに再び向き合った。
「もしお前がこれ以上あのΩとの関係の継続を望むのなら、私はお前との親子の縁を切る。本当はもっと早くに切っておけばよかったと思うくらいだ。だが、子どもも生めないΩとの結婚を望むような息子など、私はいらない」
サダオはそう言い捨てると、驚愕の事実に口をあんぐり開けるアキトと打ちひしがれるサチを置いて、自分の部屋へと戻って行った。
「お袋、今の話はどういうこと?」
アキトはサチを問い
だが、サチは答えづらそうに顔を背けた。
「お袋!」
アキトがサチを更に問い詰める。すると、サチは目をギュッと瞑り、声を絞り出すように話し始めた。
「仕方なかったのよ。だって、わたしとあの人はずっと不妊で悩んでいたんだから……」
「不妊?」
「お前も訊いたことがあるでしょう? α同士の夫婦で不妊に悩む人が多いって。わたしたちもその例外ではなかったのよ」
「それはそうだけど……」
「どうしても子どもの出来なかったわたしに、あの人は言ったの。仕方がないからΩと番を作って子どもを作れって。だから、わたしはΩのある女と番を作り、彼女との間に子どもを作った。それがお前なのよ」
「……それは本当なの?」
サチは苦し気な表情でアキトの問いに頷いた。
ずっと「生粋のα」であると思っていたアキトは、実は「生粋のα」ではなかった。αの母とΩの母との間に生まれたごく一般的なαに過ぎなかったのだ。
アキトはすぐにはその事実を受け入れられそうにもなかった。
「じゃあ、俺の本当の親は何処にいるの? 俺のもう一人のお袋は?」
アキトの問いにサチは首を横に振った。
「わからないわ。お前が生まれてから、その女とは番を解消してしまったから」
「え? 行方も知らないってこと?」
「知らないわ……」
番を解消した挙げ句、その相手であるΩの人生の面倒も見ずに打ち捨てるなんて、早々ある話ではない。
いくら婚外子を設けるためにΩと番を作ったとはいえ、その後の人生も責任を持って世話をするのがαの努めであり、それすら行なわないというのはあまりにも非道だ。
「どうして……」
アキトの声に非難の色が混ざったのをサチは感じ取ったのだろう。その場に突っ伏して彼女はわっと泣き出した。
「だって、仕方がなかったのよ! あの人は、それ以上Ωの女と関わることをわたしに禁じたのだから。あの人に逆らうことなんて、わたしには出来ないことくらい、お前もわかるでしょう!」
確かに、サダオは根っからの亭主関白気質で、同じαであるサチよりも家庭での立場は常に上だった。
脳神経外科医として若くして部長に就任し、仕事一筋に今まで生きて来た。
サチはサダオのサポートのために仕事も辞め、ずっと家庭を守る役割に徹して来たのだった。
「アキトがΩとの間に出来た子どもだってことも、あの人はずっと隠すようにわたしに言った。だから、今まで言い出すことが出来なかったのよ」
プライドの高いサダオの考えそうなことだ。曲がりなりにも自分の息子として育てることになったアキトにΩの血が混ざっているなど、自分自身が見たくない現実だったのだろう。
サチは続けた。
「でもね、そんなΩとの間に生まれた子でも、あの人はお前が生粋のαに負けない優秀なαに育つことを期待していた。もしお前の子育てに失敗したとなれば、わたしのΩを選ぶ目がなかったと責められるのはわかっていたから、お前を小さい時から塾に通わせたのよ」
そこまで話すと、サチは懇願するようにアキトを見た。
「だから、お願い。そのΩの子とは縁を切って。そうでないと、わたしもこの家にいられなくなってしまうわ」
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