6-6 心配するな
いつの間にかケンシロウのベッドサイドに突っ伏したまま眠っていたらしいアキトは、翌朝、肩を優しくポンポン叩かれる感触で目を覚ました。
「アキト、アキト」
目を開けると、ケンシロウが既に目を覚ましており、しきりにアキトの名前を呼んでいた。
ケンシロウの顔を見ると、昨日よりだいぶ血色もよくなっている。
「ケンシロウ! 調子はどうだ?」
アキトは飛び起きると、ケンシロウの調子を真っ先に心配して尋ねた。
「もうだいぶよくなった。昨日は心配かけてごめんな」
いかにも申し訳なさそうに謝るケンシロウをアキトは抱き締めた。
「そんなこと気にするな。ケンシロウが無事だっただけで、俺は十分だ」
「……うん」
しかし、ケンシロウはいつものようにアキトに甘えて来なかった。神妙な表情で、唇を噛み締めている。
「ケンシロウ?」
アキトがその異変に気付き、ケンシロウを問い質すと、彼は今にも泣きそうな顔でアキトの顔を見上げた。
「もう、アキトは知っているよね。オレが発情促進剤を……」
「そのことならもう解決済みだ」
アキトは急いでケンシロウの言葉を遮った。ケンシロウが発情促進剤を使ったという発言を誰かに訊かれては不味いからだ。
何も事情のわからないケンシロウは怪訝な顔をした。
「え、どういうこと? だってオレはアキトのこと……」
「気にするな。お前が警察の厄介になることはない。何も心配いらないから、今はゆっくり寝ていろ」
「……わかった」
アキトの強い口調に押されるように、ケンシロウは黙った。彼も何かを察したらしかった。
そんなケンシロウにアキトは一つだけ忠告をした。
「俺はな、どんな経緯であれ、お前と運命の番になったことに後悔はない。それだけは覚えておけ」
「アキト……」
ケンシロウはアキトの目を一心に見つめていた。
そんなケンシロウの唇に軽くキスをすると、アキトは何事もなかったかのように振舞った。
「そうそう。そんなことより、昨日、論文を何とか締め切りに間に合わせられたんだ」
「え? ああ、そっか。昨日が締め切りだったもんね。お疲れ様」
「ありがとうな、ケンシロウ。でも、これで暫くはケンシロウの相手もしてやれそうだ」
「オレはアキトのそばにいられるだけで十分だよ。でも、折角そんなこと考えてくれていたのに、こんな風になっちゃってごめんね」
「気にするな。今までケンシロウは頑張りすぎたんだ。高校中退して二丁目に出てからずっとな。少しは休めってことだよ」
「そうかな?」
「ああ、そうだよ」
アキトはケンシロウを優しく撫でた。
ケンシロウも次第にいつもの甘えん坊な調子を取り戻し、アキトに寄りかかって来た。
やっぱりケンシロウの小さな身体に寄りかかられると愛しくてたまらなくなる。ここが病院でなかったなら、このまま襲ってしまっていたかもしれない。
「やっぱり俺はケンシロウなしでは生きていけなさそうだ」
ケンシロウの温もりを全身に感じながら、アキトは幸せな感覚に浸ってそう言った。
「オレもアキトなしではやっていけないよ」
ケンシロウの声のトーンが一段甘くなる。
この野郎。こんな色っぽい声を出しやがって。
アキトはケンシロウの唇に深く口付けをするのだった。
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