4-8 卑しい男
男が一歩ケンシロウの方へ近づいた。思わずケンシロウは一歩
そんなケンシロウの様子を、男はさもおかしそうに笑った。
「ニカイドウ・アキト君に用事があるって? 彼は私が教えている院生だが」
何という偶然だろう。ケンシロウは目を見開いた。
男はそんなケンシロウをじっと見つめていたが、その内、その口元に含み笑いを浮かべた。
その笑みの卑しさにケンシロウの背筋が凍る。
「もしかして、君が番になったというお相手というのは彼なのかな?」
探りを入れるかのように男はケンシロウの顔を覗き込む。
この男にそうだと正直に答えた所で、碌な結果にならないのは目に見えている。
いくら彼がアキトを知っているとはいえ、このまますんなりとアキトと会わせてくれて、それで終わりになるとは思えない。
ここはうまいこと巻いて逃げた方が得策だ。
ところが、ケンシロウが何かを言う前に、男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱり図星のようだね。ねぇ、君。ニカイドウ君と番になったところで、この先どんな未来が見通せると思う?」
「……どういうこと?」
「いくら自分の人生のためにαと番になるといっても、彼を選んだのは人選ミスだったんじゃないのかな?」
ニヤニヤしながら男はケンシロウの顎を指で撫で回した。
男に触られるのが実に不快でケンシロウは顔を背けた。
それに、この男に運命の番となったアキトをそこまで馬鹿にされる覚えはない。
「人選ミス? 何でそんなことあんたに言われなきゃいけないんだ」
ケンシロウは静かに、だが怒りを込めて男に問うた。
男は冷たい笑みを浮かべたままその問いに答える。
「君がどういう経緯でニカイドウ君と番になったのかは知らない。でも、彼はね。Ωの君なんて同じ人間だなんて思っちゃいないよ。何と言ったって、私が彼を新宿二丁目に連れて行った時、彼は皆の前でそう自分の本音を漏らしたんだからね」
確かに、以前のアキトはそうだった。そんなこと、ケンシロウは知っている。でも、今ではそんなアキトも変わった。
そんな確信をケンシロウは得ていた。
「だから何? オレは知ってる。以前のアキトはそういうやつだったかもしれない。でも、今のアキトは違うって」
ケンシロウはそう言い返した。
だが、そんなケンシロウの腕を男はしっかりと掴んだのだった。
「何するんだよ!?」
叫ぶケンシロウに男はグイッと顔を近付けた。
「君は知らないようだね。彼はね、うちの大学の中では落ちこぼれなんだ。大学院生になったはいいが、研究業績が一向に上がらない。αの両親をもつ彼は自分が生粋のαであることを唯一の誇りとしている。そこにしか縋るものがないんだ」
男は半笑いを浮かべたままいかにも馬鹿にし切った調子でアキトを嘲けった。
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